学部時代に政治制度論を専攻しており、そのときに疑問に感じていたことを整理してみました。
現行法制において、国会閉会中に倒閣運動をされている内閣総理大臣が総理の座から下ろされないために閣僚を全員罷免した場合、国会議員からの要求があっても、国会が召集されず、不信任決議をすることもできないため、内閣総理大臣は辞任せずに地位を保持しつづけられる抜け穴が存在するのではないかが問題となる。
内閣総理大臣が辞任するパターンは次のとおりである。
①任意的辞任
②内閣不信任決議案可決による内閣総辞職(憲法69条)
③衆議院議員総選挙後初の国会(特別国会)の召集に伴う内閣総辞職(憲法70条)
④国会議員の辞職(除名、落選、任意的辞職)(憲法67条1項前段、70条)
内閣総理大臣に就任する資格は国会議員であるから、国会議員を辞職することになれば、欠格事由に該当し、当然に内閣総理大臣も辞任しなければならない。
このうち、内閣不信任決議案可決は国会が開催されていることが前提となり、さらにそれは国会の召集が大前提となる。特別国会の召集ももちろんそうである。
国会の召集は、天皇の国事行為(憲法7条2号)であり、内閣の助言と承認に基づく(同条柱書、53条前段)。この内閣の助言と承認の実質は閣議決定であるから、国会召集をするためには、そのための閣議が必要となり、天皇は閣議決定なしに国会を召集できない。
内閣は、任意に国会召集のための閣議決定をすることもできるが(53条前段)、いずれかの議院の総議員の4分の1以上による召集要求があった場合には召集決定をしなければならない(憲法53条後段、国会法3条)。要するに、国会の召集には閣議決定が必要ということである。
閣議は、内閣総理大臣が主宰することから(内閣法4条2項)、その招集権も内閣総理大臣に属するものと解される。閣議の招集権が内閣総理大臣にあるとすると、内閣法4条3項に基づく各大臣による閣議招集要求や憲法53条による国会招集のための閣議決定要求がなされたとしても、その開催期限に関する定めがないことから、仮に毎週火曜・金曜に開催される慣例があったとしても、内閣総理大臣が閣議を招集せずにいることも制度上不可能ではない。
また、閣議で閣僚に反対者がいたとしても、内閣総理大臣は任意に大臣を罷免できるし(憲法68条2項)、完璧を期するなら、閣僚全員を罷免して内閣総理大臣が各省大臣を兼務すれば閣議決定は完全に随意となる。この際、国務大臣の過半数を国会議員の中から任命しなければならないため(憲法68条1項但書)、内閣総理大臣しか閣僚がいない状態(いわば一人内閣)が合憲かが問題となるが、任命のための期限は定められていないから組閣人事を検討している最中だとすれば違憲とまではいえないし、違憲だとしか思えないとしても、具体的違憲立法審査権しか存在しない日本においては、違憲主張する訴訟類型がなく原告適格も認められず、司法審査は及ばず、裁判所がこれを違憲だと判断することはできない。
国会召集の閣議決定については、閣議決定が内閣のする行政処分であることから義務づけ訴訟を提起することが考えられる。しかし、仮に原告適格が国会召集要求権を持つ国会議員(いずれかの議院の総議員の4分の1以上による原告団)に認められ、勝訴できたとしても、義務づけ訴訟は行政処分をすることを行政機関に義務づけるにとどまり、裁判所が行政機関に代わって行政処分をすることはできないから、裁判所は国会召集の閣議決定を代わりにすることはできない。
株式会社のいわゆる全員出席総会の法理(最判昭和60年12月20日民集39巻8号1869頁)を類推適用すれば、国会が召集されていないとしても、衆議院議員が全員出席して内閣不信任決議案を可決することができるとも考えられるが、この法理を類推適用できるとしても、内閣総理大臣が欠席すればおそらく成り立たないものと考えられる。
国会が召集されないまま国会議員の任期が満了した場合、内閣総理大臣も国会議員の身分を喪失するから内閣は総辞職しなければならないが(憲法67条1項前段)、内閣は総辞職しても後継内閣が成立するまで職務執行内閣として継続するから(憲法71条)、選挙公示の閣議決定や首班指名をするための国会召集の閣議決定をせずにいれば、国会議員の身分を喪失しても内閣総理大臣は辞任せずにいられる。
そうすると、結局のところ、国会召集の閣議決定を永久にしなければ、内閣総理大臣はずっとその職に居座れることになる。
なお、国会を招集しない場合は次年度予算を組むことができないが(憲法83条、85条、86条)、このような居座りをする内閣総理大臣の場合は、日本の破壊を目的としているのであろうから、予算を組むことができなくても問題としないだろう。
そのような一人内閣の内閣総理大臣が死亡した場合、その後の処理はどうするべきか。任期中の国会議員がいれば、仮に参議院議員の半数しか残っていなかったとしても緊急集会(憲法54条2項但書)を開催することができるから、全員出席総会の法理をやむなく類推適用し、内閣総理大臣を指名することはできる。しかし、一人内閣状態が長く続いたために全国会議員の任期が満了していた場合は、そうすることはできない。しかし、この場合は、内閣の助言と承認を欠くとしても、天皇が選挙公示と国会召集をするしかないと思われ、内閣の助言と承認を欠くという手続上の瑕疵があるとしても、やむを得ない事態であり、また統治行為論によってもこれを違憲無効とすることはできないと解される。