個人情報とプライバシーについてのよくある誤解

個人情報保護に対する意識が非常に高まっている昨今、「誰かに関する情報は全部個人情報。一切漏らしちゃいけない」というような勘違いをしている人が非常に多いです。

これは、図書館スタッフのような、一見それなりに研修を受けていそうな人たちの中にも誤解している人が見受けられます。

調査者と調査対象者の両方がそのような誤解を持つことは、先祖調査をするに当たり、無意味に立ちはだかる壁となりえます。

そこで、この誤解について以下、説明いたします。

個人情報関連法令

「誰かに関する情報だからとりあえず断っておいた方が無難じゃないか」と考え、断り文句として、漠然と「個人情報なので…」といって済ませてしまっている人やそう言われて納得してしまう人が多いのではないでしょうか。しかし、何が個人情報保護法の対象されている<個人情報>に該当する情報で、どのような法制度で、誰が規制対象なのかについてちゃんと把握している人は非常に少ないようです。

個人情報保護法の対象となる個人情報とは、事業者が扱う、生存する個人に関する情報であって氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)(同法2条1項。)であり、<故人に関する情報>あるいは<特定の生存する個人を識別することができない情報>は同法による保護の対象とはなっておらず、これらの情報については生存する個人に関連づけられる部分において民法上のプライバシー保護の問題が生じる可能性があるのみです。

個人情報保護法には、データ内容の正確性の確保、第三者提供の制限(=本人の同意を得る)、事項の公表等(=本人の知りうる状態にしておく)、本人への通知・開示、本人からの訂正・利用停止請求への対応など生存する個人を特定識別できる情報の取り扱い方法が規定されており、その適用対象は個人情報取扱事業者です。適用除外規定も置かれており、著述業者が著述の用に供する目的である場合などは、適用が除外されます(76条1項2号)。

行政機関個人情報保護法も同様の法構造です。

つまり、個人情報保護法とは、事業者として収集した特定の生存する個人を識別できる情報について、事業者がどう取り扱うべきか取り扱い方法を定めた法律であって、死者の情報については概ね法規制の対象外であるし、特定個人を識別できない程度の情報は個人情報にはなりえないし、事業とは無関係に個人的に知った誰かに関する情報をどう取り扱うかについては同法は何も規制していません

個人情報について多くの人がしている誤解

つまり、誰でも、誰かに関する情報なら何でも個人情報で、いかなる場合も秘匿すべきもの、というのは誤解です。

したがって、例えばいつどこで見かけたとか、いつもこの時間に散歩しているなどというのは、誰かに関する情報ではありますが、上記<個人情報>の定義には該当しませんから、法律上保護される<個人情報>ではありません。

あるいは、SNS上では、郵便番号だけでも個人情報に該当するなどと誤解している人々がいらっしゃいますが、同一の郵便番号に該当する人は同一地区に住んでいる何百人~数千人にものぼるわけですから、これだけでは個人を特定できるはずがなく、個人情報には到底該当しません。

仮に氏名であっても、よほど特徴的な氏名の場合は別として、世の中に何百人もいそうなありふれた氏名(例えば山田太郎とか佐藤一郎とか)だけでは特定の個人を識別できませんから、氏名だけでは個人情報には該当しません。しかし、住所や生年月日と合わせればどこの誰だかが識別できるので、「氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができる」に該当し、個人情報といえるわけです。

死者についての情報まで何でも規制対象にしたら、歴史研究など到底成り立たなくなりますし、規制する実益がないことは、少し考えればわかることです。

また、自分に関する個人情報であっても公開することは違法だというように誤解している方もいらっしゃいます。自分に関する個人情報を公開することに制限はありません。ただ、ストーカーとか誘拐などの被害に遭うかもしれないから控えた方がよいのではないかという意見があるだけです。

このような誤解が生じるのは、単に人づてに聞いた噂だけを鵜呑みにし、根拠法令や定義を確認せず、「とりあえず何もしないのが無難」としているからだと考えられます。

一般的に、法律の素人は、噂や、法律用語の文字から勝手にイメージした定義で内容を捉えがちですが、これが誤解の元です。法律用語と日常用語は結構意味が異なるものです(例えば「社員」は日常用語では「会社員、従業員」ですが、法律用語では社団法人の意思決定機関構成員(株式会社であれば株主)です。「事件」というありふれたことばですら、法律用語ではニュアンスが異なります)。したがって、定義を含めて条文等から確認すべきですが、条文や判例だけ読んでみても、不文要件の存否(他の条項との区別の必要性から、解釈上、条文に書かれていない要件があるとされることがある)や事例判決(一般性がなく、単にその事件限りの判断)か否かを把握できないでしょうから、専門書に当たらなければなりませんし、かといって「そんなの面倒だから/何がどうなるかわからないから(漠然とした不安)、何でも一律に控えておけば無難だ」という考え方も萎縮効果といって法律学が好ましくないとしている状況を引き起こしますから、忙しくても素人でも法律用語を使うなら面倒でも専門書を確認しましょう。さらに、法律違反というとすぐ刑罰を連想する人がいますが、義務を課してはいても罰則のない法律は少なくないですし、罰則といってもその前段階として是正命令などが定められていて、命令に違反したことで行政罰(これは刑罰とは別物です)とか刑罰を受けうるという形式であることが少なくないです。

図書館等のスタッフにおいても、研修のレベルが低いのか、研修自体を行っていないのかわかりませんが、上記のような誤解をしている方がときたま見受けられます。

当センターの場合

当センターのサービスでは、多くの場合は故人に関する情報ですが、生存する個人に関する情報も含まれますが、家族史・人物事典編纂サービスの名の通り、著述業者として著述の用に供する目的で取り扱います。生存する個人のみならず故人も含めた個人情報については、法の遵守のみならず正確な家族史・人物事典を編纂するため、ご本人への通知・開示、訂正によりデータの正確性の確保を目指します。第三者への情報提供につきましても、調査に必要な範囲において、依頼人又は本人に都度確認して行います。

なお、依頼人は通常の場合は、個人であって事業者あるいは法人ではありませんので、依頼人ご自身には個人情報保護法の適用はありません。

また、プライバシー侵害とは、私生活上の事実又は事実と受け取られる可能性があり、一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合に公開を欲しないであろうと認められ、かつ、一般人に未だ知られていない事柄を、被害者本人の同意がなく、又は公益性若しくは正当な理由がないのに公表し被害者が不安や不快になった場合にプライバシー侵害となるものです(判例法理)。したがって、本人の同意があって公表に当たらない場合とか、本人との関連づけが相当に困難である場合とか、被害者がプライバシー侵害だと感じていない場合などプライバシー侵害の要件を欠く場合は、プライバシー侵害は成立しません。ですので、故人のプライバシーについては、基本的に認められていません。強いて関連する条文を挙げるならば、故人について虚偽の事実を摘示して名誉棄損した場合に名誉毀損罪に当たる可能性がある程度です(刑法230条2項)。

当センターは、また、プライバシー侵害の典型例である無断での出版・サイト掲載はもとより、いかなる方法によっても調査・編纂その他ご依頼遂行に当たって知り得た個人情報あるいは依頼人ないし記載対象者、インタビュー対象者等のプライバシーを侵害しうる情報を公表することはございません。事例や研究成果として紹介・公表する場合は、個人を特定識別又は関連づけできないように匿名化した上で行います。

当センターは、家族史・人物事典編纂サービス及びその成果物は、依頼人や縁戚関係などごく限られた人的範囲(非公表と解される範囲)において利用されるものと想定し、業務を遂行いたします。依頼人又はその継承者が出版やネット掲載、図書館納本等することにより公表する場合は、依頼人又はその継承者の責任において、関係者に対し公表の同意を得るなどを経た上で行い、当センターは一切の責任を負わないことをお約束いただきます。

当センターは、ご依頼遂行に当たって知り得た情報は、守秘いたします。ただし、調査又はインタビューする際に調査対象者又は調査対象機関に対し、調査又はインタビューに必要ないし有効な範囲で情報を開示する場合がありますが、事前に依頼人の同意の有無を確認いたします。