『系図系譜研究』第1巻第1号に論文が掲載されました

  1. 『系図系譜研究』第1巻第1号に論文が掲載されました
    1. 論文概要
    2. 論文情報
    3. 論文へのアクセス
  2. 1 問題意識
  3. 2 方法論
  4. 3 目的論(1)先行研究における研究目的及び研究対象の整理
    1. (1)問題の所在
    2. (2)方法
    3. (3)類型化分析
      1. ア <系図・系譜を究める>派
      2. イ <系図・系譜の真偽>を解明する派
      3. ウ 出自・歴代の発見・解明派
      4. エ 系図譜自体の意義やあり方を明らかにする派
      5. オ 系図譜自体の意義やあり方を明らかにする・掲載内容の真偽判定派
      6. カ 史料学派
      7. キ 歴史学研究に資すること(歴史学の補助学)派
      8. ク 偽文書学派
      9. ケ 歴史学補助学・系図譜自体の意義折衷派
      10. コ 系図系譜集・事典類の編纂派
      11. サ 太田亮説
      12. シ 丸山浩一説
    4. (4)小括
  5. 4 対象論(1)系図譜の内容的実質
    1. (1)問題の所在
    2. (2)先行研究における系図譜の定義
      1. ア 問題の所在
      2. イ 定義の要件と妥当性の判定方法
      3. ウ 先行研究における系図譜の定義の整理と限界
          1. (i) 角川新版日本史辞典説
          2. (ii) 青山幹哉説
          3. (iii) 佐伯有清説
          4. (iv) 亀長洋子説
          5. (v) 鈴木正信説
          6. (vi) 太田亮説
          7. (vii) Lorenz説
          8. (viii) 仓修良説
          9. (ix) 久野俊彦説
          10. (x) 網野善彦説
          11. (xi) 菅野雅雄が紹介した説
          12. (xii) 吉岡吾郎説
          13. (xiii) 近藤安太郎説
          14. (xiv) 岩本・八木説
          15. (xv) 飯沼賢司
          16. (xvi) 上田晃説
          17. (xvii) 小笠原長和説
          18. (xviii) 『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』
          19. (xix) 『精選版 日本国語大辞典』
          20. (xx) 『百科事典マイペディア』
          21. (xxi) 『図書館情報学用語辞典 第5版』
          22. (xxii) 加藤秀幸説
          23. (xxiii) 『デジタル大辞泉』
          24. (xxiv) 『日本大百科全書(ニッポニカ)』 
          25. (xxv) 『旺文社日本史事典 三訂版』
          26. (xxvi) 『日本民俗事典』
          27. (xxvii) 『広辞苑 第7版』
      4. エ 小括
    3. (3)外形と内容
    4. (4)系図譜の要素・性質分析
          1. (i) 時系列性
          2. (ii) 続柄的結合関係
          3. (iii) 人的集合
          4. (iv) 選択的範囲
          5. (v) データ性
    5. (5)学問対象の内容的実質の要素・性質
      1. ア 問題の所在
      2. イ 検討
      3. ウ 小活
    6. (6)学問対象の内容的実質を表現する概念語の確定
      1. ア 候補語の比較検討
      2. イ 「歴代親族構成情報」の採用
    7. (7)結論
  6. 5 目的論(2)学問目的の確定と階層
    1. (1)先行研究における研究目的の再整理
      1. ア 学問目的①「真の歴代親族構成情報を明らかにすること」
      2. イ 学問目的②「系図譜にまつわる諸事象の類型、傾向及び変遷を明らかにすること」
      3. ウ 学問目的③系図譜集及び事典類その他のデータベースを構築すること
      4. エ 学問目的④「学問目的①~③の研究成果を歴史学、医学、遺伝学その他の学問分野において応用するための方法論その他の理論を確立すること」
        1. (ア) 「研究の成果を歴史学、医学、遺伝学その他の学問分野の研究において活用すること」という目的
        2. (イ)効用と目的の混同
        3. (ウ)学際的学問分野としての目的設定
      5. オ 太田亮説との比較
      6. カ 小括
    2. (2)目的の論理的依存関係分析と階層化
      1. ア 問題の所在
      2. イ 学問目的④と学問目的①~③の関係
      3. ウ 学問目的②と学問目的①の関係
      4. エ 学問目的③と学問目的①の関係
      5. オ 学問目的②と学問目的③の関係
      6. カ 小括
    3. (3)系図系譜学の目的の確定
  7. 6 対象論(2)学問対象の範囲
    1. (1)問題の所在
    2. (2)先行研究
    3. (3)基本的範囲
      1. ア 問題の所在と範囲確定方法
      2. イ 学問目的①関係
      3. ウ 学問目的②関係
      4. エ 学問目的③関係
      5. オ 学問目的④関係
      6. カ 副次的対象:系図譜に類似する外観を有するが歴代親族構成情報を軸としない記録類
    4. (4)時期的範囲
      1. ア 問題の所在
      2. イ 系図譜の特性と時代区分論の不適合性
      3. ウ 系図譜の特性に基づく系図系譜学の独自性
      4. エ 小括
    5. (5)社会階層的範囲
      1. ア 問題の所在
      2. イ 従来研究の偏重
      3. ウ 全階層を対象とする必要性と意義
      4. エ 小括
    6. (6)地理的範囲
      1. ア 問題の所在
      2. イ 従来研究の偏重
      3. ウ 小括
    7. (7)学理的範囲
      1. ア 問題の所在
      2. イ 下位分野の構成と各分野における目的・方法の研究の必要性
      3. ウ 小括

『系図系譜研究』第1巻第1号に論文が掲載されました

2026年1月29日

当研究所所長・木下祐也の論文「系図系譜学の理論体系構築のための試論(1)――目的論・対象論――」が、学術雑誌『系図系譜研究』第1巻第1号に掲載されました。

論文概要

本論文は、理論体系を欠き歴史学の一領域のように扱われてきた従来の系図学・系譜学を抜本的に再編し、系図系譜学を理論体系を持つ独立した学問分野として確立するため、その目的論と対象論を構築するものです。

従来の系図学・系譜学では学問目的と学問対象が明確に定義されてこなかったため、先行研究における研究目的・研究対象を網羅的に収集し類型化分析を行いました。その結果、研究目的は12類型に分類され、歴史学補助学から系図譜自体の意義解明まで多様であることが判明しました。

次に、系図譜の定義に関する先行研究27説を検討し、系図譜の内容的実質を「①作成者・研究者が選択した範囲に属する②続柄という関係性で連続的に結合していると認められる③人々を④時系列に基づいて記載した⑤データ」と確定し、それを表す概念語を「歴代親族構成情報」としました。

さらに、学問目的を①真の歴代親族構成情報の解明、②系図譜にまつわる諸事象の類型・傾向・変遷の解明、③系図系譜集・事典編纂及びデータベース構築、④学際研究の方法その他の理論の確立の4つに階層化し、①②③を系図系譜学固有の学問目的、①を中核的学問目的と位置づけました。

本論文により、系図系譜学が歴史学とは異なる固有の学問目的と学問対象を有することが明らかとなりました。

論文情報

  • タイトル: 系図系譜学の理論体系構築のための試論(1)――目的論・対象論――
  • 著者: 木下祐也
  • 掲載誌: 『系図系譜研究』第1巻第1号
  • 発行: 家系研究協議会
  • DOI: https://doi.org/10.69352/keiron.1.1_1

論文へのアクセス

論文全文は以下のリンクから無料でご覧いただけます。


本文:系図系譜学の理論体系構築のための試論(1)――目的論及び対象論――

 

要  旨

 本論文は、理論体系を欠き歴史学の一領域のように扱われてきた従来の系図学・系譜学を抜本的に再編し、系図系譜学を理論体系を持つ独立した学問分野として確立するため、その目的論と対象論を構築する。従来の系図学・系譜学では学問目的と学問対象が明確に定義されてこなかったため、先行研究における研究目的・研究対象を網羅的に収集し類型化分析を行った。その結果、研究目的は12類型に分類され、歴史学補助学から系図譜自体の意義解明まで多様であることが判明した。次に、系図譜の定義に関する先行研究27説を検討し、系図譜の内容的実質を「①作成者・研究者が選択した範囲に属する②続柄という関係性で結合していると認められる③人々の④時系列に基づく⑤データ」と確定し、それを表す概念語を「歴代親族構成情報」とした。さらに、学問目的を①真の歴代親族構成情報の解明、②系図譜にまつわる諸事象の類型・傾向・変遷の解明、③系図系譜集・事典編纂及びデータベース構築、④学際研究の方法その他の理論の確立の4つに階層化し、①②③を系図系譜学固有の学問目的、①を中核的学問目的と位置づけた。学問対象の範囲は、時期的・社会階層的・地理的制約を設けず、理論面も含むメタレベルでの議論も対象とする。本論文により、系図系譜学が歴史学とは異なる固有の学問目的と学問対象を有することが明らかとなった。

キーワード: 学問体系論、目的論、対象論、歴代親族構成情報、学問論、メタ理論、類型化分析、概念定義、系図学、系譜学

1 問題意識

 そもそも、系図系譜学は、何を研究対象とし、何を学問上の目的としているのだろうか。およそ学問分野である以上、学問目的と学問対象が存在するはずだが、伝統的系譜学ではそれらがきちんと整理されてこなかったため、系図系譜学における学問目的と学問対象はそれぞれ何かが問題となる。

 そのため、本節では、系図系譜学の目的論(Teleology)と対象論(Objective theory)を論じる。これらは系図系譜学の基礎研究内の基盤理論に配置される(これについては分野体系論において詳述する。)。

 なお、学問目的には学問対象が含まれるため、学問目的を明らかにする過程で必然的に学問対象も明らかになる。論理構成上の都合から、対象論を学問対象の本質の分析とその範囲・類型の分析とに二分し、先行研究整理と目的論との間で、学問目的のみならず学問対象の本質を明らかにする。そして、その後で、学問対象の範囲ないし分類を論じることとする。

2 方法論

 系図系譜学の学問目的及び学問対象を策定するにあたり、以下の分析手法を採用する。

 なお、本書では、個別の系図系譜研究の目的及び対象と区別するため、それらを「研究目的」(Study Purpose)及び「研究対象」(Study Object)といい、系図系譜学の学問分野としての目的及び対象を「学問目的」(Disciplinary  Purpose)及び「学問対象」(Disciplinary Object)という。また、用語論で詳述するが、引用を除き、系図及び系譜の総称を「系図譜」とし、系図譜に関する研究を「系図系譜研究」(Genealogical Studies)といい、従来型の系図系譜研究を特に「史学的系譜学」(Historical Genealogy)あるいは「伝統的系譜学」(Traditional Genealogy)ということがある(いずれも筆者による造語)。

 

(i) 先行研究における研究目的及び研究対象の整理

 個別の研究(事例研究ないし理論考察)における明示的・実質的な研究目的及び研究対象を網羅的に収集し、帰納的に抽出して類型化する。

 

(ii)学問対象の内容的実質の確定

 先行研究における研究対象は必然的に研究目的に含まれるため、(i)により収集された学問目的から学問対象を演繹的に導出する。

 

(iii)学問目的の再整理と確定

 (ii)で確定した学問対象をキー概念として、類型化された研究目的類型を再整理し、学問目的として合理的な内容を演繹的に策定する。

 その際の考慮事項は、次の2点とする。

①学問的独自性の確保

 既存学問分野(特に歴史学・史料学)との差異を明確化し、独立した学問としての系図系譜学固有の目的設定を行う。

②将来的発展可能性の確保

 これまでの研究蓄積の偏在を理由として対象や方法の範囲を限定することなく、学問の将来的発展可能性を考慮した目的設定を行う。

③包括性の確保

 特定の時代・地域・身分階層に偏重するなど研究対象を不必要に限定しない包括的な目的設定を行う。

 

(iv)論理的依存関係分析

 抽出された複数の研究目的類型について、論理的依存関係を分析し、前提となる基礎的目的と、それに基づく応用的目的とを区別する。基礎的目的を中心に据え、応用的目的を副次的位置に配置することで、学問体系の論理的整合性を確保する。

 

(v)学問対象の範囲の措定

 (ii)で確定した学問対象は、極めて抽象的かつ包括的な概念であるため、その範囲(いわゆる射程)を明らかにする。その際、学問対象の範囲を不当に制限しないように配慮し、将来的な拡張可能性を確保する。

3 目的論(1)先行研究における研究目的及び研究対象の整理

(1)問題の所在

 系図系譜研究の目的・対象について、これまでの系図系譜研究をした者たちはどのように認識していたか、名目上の目的意識がどうあれ、事例研究に現れた実質的な目的意識は何かが問題となる。

(2)方法

 そこで、まず、事典類の記載を含めた先行研究における系図学・系譜学の学問目的を類型化して整理することにした。対象となる文献は、文献入手の都合から、日本国内の主要な系図系譜研究雑誌である『系譜と伝記』『国史と系譜』『家系研究』『姓氏と家系』と主要な国内の系図系譜研究者、海外を含む主要な系図学・系譜学の理論書・概説書とした。海外研究については、将来的に分析対象に組み入れることとし、今回は割愛した。研究目的が明示されていないものについては、論考の全趣旨から実質的な目的を判定した。

(3)類型化分析

 先行研究における系図学・系譜学の学問目的は、次の通り類型化される。

ア <系図・系譜を究める>派

  『世界大百科事典 第2版』は、「系譜または系図を究める学問」と定義している

 これは単に「系譜・系図を対象とする学問である」といっているだけで、系図・系譜をどう研究してどうするかという学問目的については、何も説明していない。

 このような文言が過度に広汎で不明確なものを参考にすることはできない。

イ <系図・系譜の真偽>を解明する派

 『日本大百科全書(ニッポニカ)』は、「系譜・系図について、その真偽・正邪を明らかにするための学問。」と定義している

 『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』も「系譜 (→系図 ) の真偽を科学的に解明する学問。」と定義している

 これら<系図・系譜の真偽>を解明する派については、真偽解明の対象が、記載内容の真偽なのか、それとも小道具的な創作物かどうかなのか、が不明瞭である。特にニッポニカのいう「正邪」というものを系図・系譜に観念することができない。

 これらに類する定義として、金久与市の「家代々の家系について調べ、その真偽を匡すこと」がある。この定義は、上記2つの事典類の問題に加えて、文法的にも意味的にも破綻している。まず、「家代々の家系」という表現が意味不明である。というのは、なぜ「各家の代々」とか「各家系」とかではなく「家代々の家系」という奇妙な文言にしたのか、前方の「家」と「代々の」がなぜ「家系」を修飾しているのかが釈然としないためである。次に、「家代々の」を過剰で無意味な修飾語だと仮定して、無視して「家系について調べ、その真偽を匡す」の部分のみを検討すると、これを「自分で調べた家系の真偽を匡す」、すなわち第一次的な研究結果の当否を検証するという意味で捉えた場合、そのようなことはどの学問分野であっても当たり前の研究活動であってわざわざこのように定義することに意味はないし、「調査対象となった家系の真偽を匡す」という意味だとしても、家系図を匡すという書面上の記録の真偽判定ではなく、客観的に代々続いてきた家系の真偽判定(つまり、例えば、私の木下家の真なのか偽なのかということ)などはおよそ観念することができないからである。もっとも、先の2つの事典類と同趣旨の定義をしようとしたが、推敲不足により言葉足らずが放置されたか、「家系」の後に「図」を書いたつもりで脱字したか、ということだと好意的に解釈すべきだとは思う。

ウ 出自・歴代の発見・解明派

 出自や歴代の人物の解明・発見を研究目的とする系図系譜研究は枚挙に暇がない。系譜学会『系譜と伝記』・『国史と系譜』、家系研究協議会『家系研究』、日本家系図学界『姓氏と家系』の各学術雑誌掲載論文を始めとして、日本における系図系譜研究論文の圧倒的多数が、○○氏(とある苗字の一族)は△△氏(源平藤橘等の氏族)かを明らかにし、両者の系図又は系譜を接合しようとするものであることは、もはや公知の事実である。もっとも、それらのほとんどにおいて問題設定が曖昧・漠然としていて研究目的を明記していないこともまた残念ながら経験則上明らかであるが、論文の全趣旨から出自・歴代の発見・解明を研究目的としていることは明らかであるし、また、それらの各著者が学問目的や学問対象を論じていないとしても、その集合的な意識としては、出自・歴代の発見・解明を系図学ないし系譜学の学問目的として想定していることも明らかである。

 遺伝系図学(Genetic Genealogy)の諸研究もこれに該当する

 なお、これは、ある氏族・一族・家系の出自(起源)を解明する研究であるだけでなく、ある氏族・一族の分流・分岐点を解明する研究でもある。ある氏族・一族・家系の起源・出自を解明する研究や、ある氏族・一族から分岐した氏族・一族・家系について、どの時点で分岐したかを解明する研究や、系図譜に記載されている人物同士の続柄だけでなく、同族の系図譜及びその前後に接続し、系図譜上に現れていない人物同士の続柄を明らかにする研究は、『家系研究』『姓氏と家系』各号に掲載された論文に多く含まれる。宝賀寿男も、特定の氏族・一族の「祖系」や分岐を解明することを『姓氏と家系』『家系研究』両誌において発表した論文の研究目的としている。

 自家先祖調査も、だいたいは江戸時代までの先祖を発見するに留まるものの、その目標は、歴代の人物を発見し、どの一族・氏族に繋がるかを明らかにし、以て系図又は系譜を作成することであることもまた公知の事実である。もっとも、自家先祖調査は、氏族・一族・家系に起こった出来事を叙述することをも目的としている。

 イの系図譜の真偽を明らかにすることというのも、好意的に解釈すれば、系図譜の記載が事実か否かを明らかにすることを指すともいえるが、そうでない解釈もあるし、系図譜の記載が事実か否かを明らかにすることは歴代を解明することともいえる。

 系譜学の理論書を執筆したOttokar Lorenzは、「Thätigkeit kommt es in der genealogischen Wissenschaft zunächst darauf an, die durch Zeugung und Abstammung bedingten Verhältnisse von bestimmten Personen zu bestimmten Personen richtig zu erkennen und klar nachzuweisen.(系譜学的学問においてまず重要なことは、生殖及び出自によって条件づけられた、特定の人物から特定の人物への関係を正しく認識し、明確に証明することである。」と位置づけている

 西洋史学者の池上俊一は、「史料批判をする際に不可欠の技術」の一つとして「系譜・家系学」を挙げ、歴史学の補助学の一つと位置づけたものの、「「系譜・家系学」は、年代記・証書・墓碑などを史料に家族のメンバーのリストを作成し、メンバー間の関係、系譜を究明する学問である。系図の図像化にもさまざまな形態があり、文化史の史料となる。」とも位置づけており、歴史学とは別個の、歴代の家族の構成ないし関係を明らかにするものと解している

エ 系図譜自体の意義やあり方を明らかにする派

 系図譜自体の意義やあり方を明らかにすることを目的とする者もいる。

 例えば、高橋基泰は、家系図作成の意義を明らかにすることと、家系図をめぐる研究について新たな可能性を探ることの2つを目的としているが、後者は、どの学問分野であっても研究対象について新たなアプローチを検討するのであり、当たり前のことであるから、あえて目的として挙げる必要はない。

オ 系図譜自体の意義やあり方を明らかにする・掲載内容の真偽判定派

 系図譜自体の意義やあり方を明らかにすることや掲載内容の真偽判定を目的とする者もいる。

 例えば、日本古代史学者の溝口睦子は、 「氏族系譜とは何か。現在文献に見られるような氏族系譜が成立したのはいつか。これらの系譜の中、比較的信用できるものはどれで、信用できないのはどれか。神話に属するのはどこからで、史実はどこからか」を解明することと位置づけた。

カ 史料学派

 青山幹哉は、系図学を史料学の1ジャンルと位置づけ、系図それ自体から系図作成時の時代・社会の特性を解読すること、そして、系図記載事項の中から歴史的事実を見いだすこと、さらには、系図学を系図史とすることを目的としている

キ 歴史学研究に資すること(歴史学の補助学)派

 系図学ないし系譜学は、歴史学の概説書においてしばしば「歴史学の補助学の一つ」として説明される。歴史学の補助学とは、字面によって誤解されやすいようだが、決して歴史学の下位領域とか、歴史学に専属する学問分野ではなく、歴史学研究の参考にすべき他の学問分野における研究を意味し、自然科学ですら歴史学の補助学とされる

 しかし、この正確な定義に反して、系譜学ないし系図学を歴史学の下位領域ないし歴史学に専属する学問分野と位置づけ、歴史学研究に資すること自体を系図学ないし系譜学の目的とする者もいる。

 系譜学の理論書を執筆したJohann Christoph Gattererは、「Die Genealogie soll eine von den historischen Hülfswissenschaften seyn; aber so wie sie bisher in Büchern und Tafeln dargestellt worden ist, leistet sie der Geschichte bey weitem noch nicht allen den Beystand, welchen man von ihr erwarten kan und soll. Ursprünglich, und der Wortbedeutung nach, ist sie freylich nur Darstellung aller, von einem und ebendemselben Vater abstammenden Personen, entweder der männlichen allein, oder der männlichen und weiblichen zugleich.(系譜学は歴史補助学の一つであるべきである。しかし、これまで書物や図表において表現されてきたような形では、期待され得るし期待されるべき全ての支援を歴史学に対して提供するには程遠い。本来的に、そして語義的には、系譜学は、一人の同じ父から派生した全ての人物の表現である。それは男性のみの場合もあれば、男性と女性を同時に扱う場合もある。」、つまり歴史学研究に資することであり、対象である系譜は、人の同じ父から派生した全ての人物の表現であって、記載される人物は男性のみの場合もあれば、男性と女性の両方の場合もある。と位置づけた

 

 日本史学者の根岸茂夫は、系図系譜研究を下記のような歴史学研究に資するためのものとして位置づけている。

  •  家臣団の知行分布を解明すること
  •  近世初期の村落内の兵農分離の過程を解明すること
  •  近世前期の名主の家意識を解明すること
  •  村落開発の過程を解明すること
  •  近世初期における土豪層の存在形態と近世村落の展開に対する役割を解明すること

 また、日本古代氏族研究家の宝賀寿男は、系図研究の目的について、次のように指摘している。すなわち、「系図研究の目的で主なものは、史実(歴史原態)の探求(そのための補助・材料)ではあるが、(中略)多くの歴史的な事件に登場する諸人物の具体的な比定や様々な人間関係を具体的・的確に把握するため、系図(血系、家系)を史料として用いることで、史実の解明に寄与することである。」、「個別の系図研究を大きな歴史に反映(修補)させることができるように、個人や家系についての研究を徹底して個々の史実原型を固めること、これが、系図研究の大基礎だと考えられる。」、「家系・系譜の研究は、先祖・先人の足跡をたどり、その活動を実地にあたり具体的多角的に調べて、上古から続く歴史の実像(原像、古態、原態)を、個々人や家族・同族という小単位から歴史や文化・技術などの大きな流れへと、総合的なものに再構成する役割を果たすもの」と位置づけている。すなわち、系図研究を歴史学研究の一領域ないし歴史学研究に資するための手段と位置づけているものと解される。

 雄山閣編輯部も、「系譜は、文書や記録と違ひ、常に編纂物であつてその編者が自分のことよりは先祖や遠流を傳へることに努力し、時には故意に事實を曲げる場合もあるので、これを史料として使用する時はその系譜の作成年代を吟味し、その内容についての批判を厳密にしなければならない」ため、「國史の研究者にとつて、史料の一部としての系譜の正しい研究法こそもつとも大切」であると位置づけている

ク 偽文書学派

 系図譜を虚偽記載の多い文書とみなした上で、その虚偽記載の動機から何らかの発見を目指す者もいる。

 日本中世史学者の網野善彦は、「文献史料学の一部門としての系譜史料学、さらに広義の歴史学の一分野としての系譜学」と位置づけた上で、「史料そのものの中に含まれる伝承と史実とを正確に弁別した上で、そのそれぞれを史料として学問的な研究の対象にしつつ、系図譜の成立、形成の過程、機能を明らかにし、その中に社会の動向、国家の関わりを追究、解明することにある」と位置づけている

 西洋史学者の亀長洋子は、系図作成における虚構性の背後にある人々の積極的意図と社会的背景に光をあてることを目的とする。

ケ 歴史学補助学・系図譜自体の意義折衷派

 単に歴史学研究に資することのみならず、伝世過程や系図譜自体の意義を見出そうとする者もいる。

 まず、日本古代史学者の佐伯有清は、系図譜を「歴史研究における史料として」扱い、「古代氏族の系譜が、なにを語っているのか、どのようなところに系図の価値があるのか」を明らかにすること、当該氏族の存在形態や、その系譜が編纂された時代背景を明らかにすることを系図系譜研究の目的と定義していることから、系図研究を歴史学研究の一領域ないし歴史学研究に資するための手段と位置づけているものと解される。

 また、日本古代史学者の鈴木正信も、系図系譜研究を下記のような歴史学研究に資するためのものとして位置づけている。

  •  古代氏族の系譜で当該氏族の足跡・存在形態・正確、およびその系譜が編纂された時代背景や伝世過程を明らかにすること
  •  系譜を読み解くことによって『古事記』や『日本書紀』など古代史研究の基本史料からは知り得なかった古代氏族の実態や、古代国家形成の新たな一側面を明らかにすること、それによって描き出された古代氏族の姿をフィードバックすることにより、系譜が持つ史料としての特質を照らし出すこと
  •  個々の古代氏族の実態を解明すること
  •  世に「埋もれた家系」や誤解され無視されてきた家系などの研究から、ここで分かった史実を「正史へ反映」するまでを目指してつとめていくこと
  • 系図譜中の矛盾点を解明すること
  • 系図譜から読み取れること

 家族史学者の義江明子は、「系譜は、常にその時点での現実の必要に応じ、そのときの系譜意識にのっとって作り替えられ加上されていくため、従来の系譜研究では、史料としての系譜に記載された伝承の内容の信憑性を明らかにすることを目的として、造作の跡を取り除いていくことになるが、系譜の形式の特色とその変化を明らかにすることを目的とする研究では、作り替えられていく各段階ごとが、それぞれの時代の系譜意識の特色をつかむための貴重な素材となる」とし、①系譜の形式の特色とその変化を明らかにすることと、②それぞれの時代の系譜意識の特色をつかむこと、さらには「複数の古代氏族の系譜の共通性と相違性を明らかにすること」という史料学的な目的意識を持ちつつも、下記のような歴史学研究の一領域としての家族史研究に資することをも目的とする。

  •  氏(ウヂ)や家(イヘ)といった社会的集団の成り立ちを明らかにすること
  •  古代の<祖の子>と<生の子>の「オヤ-コ」観の特質及び両者の関連を明らかにすること
  •  古系譜の形式の変化を手がかりに「オヤ-コ」観の特質と変容の過程を具体的に明らかにすること
  •  「オヤ-コ」観の特質と変容の過程が祖霊観・祖先祭祀のあり方とどのように関連しているのかを明らかにすること

コ 系図系譜集・事典類の編纂派

 系図系譜集・事典類の編纂を目的とすることも研究目的と解される。

 例えば、『尊卑分脈』の編者である洞院公定や『群書系図部集』の編者である塙保己一などは、これまで単なる系図系譜集の編者としか顧みられていなかったが、その編纂活動を想起すれば、系図系譜集の編纂を目的として、収録対象とする系図譜間の矛盾齟齬を究明して最も信憑性が高いと判断したものを採録した、研究成果としての系図系譜集を刊行したものと解される(これについては方法論等で詳述する。)。最近のものでは、日置昌一『日本系譜総覧』名著刊行会(1973年)や宝賀寿男編『古代氏族系譜集成』(上・中・下巻)古代氏族研究会(1986年)なども系図系譜集を編纂することを目的とする研究であるといえる。

 事典類を編纂することを目的とする研究としては、太田亮『姓氏家系大辞典』姓氏家系大辞典刊行会(1934-1936年)、丸山浩一『系図文献資料総覧 増補改訂版』緑蔭書房(1992年)などが挙げられる。

サ 太田亮説

 日本で最も有名な系譜学者の一人である太田亮は、『家系系図の入門』では、系図の目的ではなく)系図研究の目的として、次のとおり複数の目的を挙げている

 ①「史学上の必要からの必要で、歴史上有力な人物の系統を研究すること」

 ②「祖先崇拝」

 ③「名誉心」

 ④「医学上からの主張」

 ⑤「物好き」・「知識欲」・「自己満足」に基づく各人の系図研究の集大成としての「真実の国史」・「国民史」の形成

 また、太田は、「系図と系譜」では、下記のように5つの学問目的ないし学問対象を挙げており、うち⑦と⑨の2つは、自説というより紹介である。

 ⑥氏、字、苗字、稱號等、換言すれば、廣義に於ける氏の變遷と、これに附随する諸事項との研究を對象とする學問

 ⑦「歴史上必要なる氏の系統を研究する」としての史學の補助學としての系譜學については、と云ふ様な定義を下す人もある

 ⑧一般史學と離れて、「あらゆる家系、血系を研究し、それを基として、社會變遷の真相を探らんとする學問」

 ⑨通俗的には、「家々の系圖を調査する學問」と思はれて居る。

 ⑩一般史學研究法より離るゝ事なく、各氏々、各家々の家系、血系を調査するは各論に當り、更に其の研究結果を資料とし、之を総合し、分類し、且つ相互を比較研究する事によりて、歸納的に各時代に於ける社會組織の真相を探る

 以上を整理すると、太田が挙げた目的のうち①、⑤、⑦、⑩は、歴史学補助学として歴史学研究に資することを目的とする類型に属すると思われる。⑧については、一般史学研究に資するためではなく、社会の変遷を明らかにすることを目的とするということであるから、社会学研究に資することを念頭に置いているのかもしれない。⑨は、アの系図・系譜を究めるに相当すると考えられる。④は、その解説文から医学的・遺伝学的研究に資するためであることは明らかである。⑥は、系図系譜研究というより、その前提知識を明らかにする研究又は系図譜を利用してする氏・苗字等の研究のように考えられる。他方、②及び③は、学問上の目的とはいえない。

 

シ 丸山浩一説

 丸山浩一は、「家系研究とは社会科学の延長線上に、各家の家系血系を調査し、ひいては同族調査に及ぼして埋もれた氏族史を掘りおこし、それを総合的に分類し、地域社会の、ひいては日本の組織や文化に迫るものである。」と位置づけている

 これは、社会科学的な目的・方法により、家系ないし氏族に関する研究を行い、その成果によって地域ないし日本全国の組織・文化研究に資することを学問目的とする見解と解される。 

(4)小括

 以上の通り、先行研究における系図学・系譜学の目的論は類型化されうるところ、それぞれの定義文は、出自・歴代の発見解明や系図譜自体のあり方といった系図学・系譜学固有の目的と解されるもの以外にも、他の学問分野に資することという外部依存的な目的を設定したものや、ほとんど何も言っていないようなものまであった。ただ、いずれも多かれ少なかれ、含むべきものを含まず、含むべきでないものを含み、言葉足らずで、過度広汎ないし曖昧不明確な部分があるから、上記のいずれかを系図系譜学の学問目的としてそのまま採用することは相当ではない。

 そのため、本稿は上記の各目的論を踏まえつつ、系図系譜学の学問目的を独自に定義することとした。

4 対象論(1)系図譜の内容的実質

(1)問題の所在

 学問対象は学問目的内に含まれるのであるから、学問目的を定義するためには、学問対象を定義することが前提となる。

 言うまでもなく、系図譜が学問対象であることに異論はありえない。実際、3で検討したとおり、系図ないし系譜がすべての研究目的に関わっている。しかし、系図譜の記載内容の真偽や系図譜自体の意義を明らかにすることのみならず、断片的な情報を合わせて系図譜を復元したり、複数の系図譜間を接続して出自や歴代人物を明らかにするなどの研究は、未だ作成されていない系図譜の一部又は全部を作成するものである。そのため、そのような研究前時点では存在しない系図譜をも含む学問対象をどのように画定するかが問題となる。

 問題はそれだけではない。そもそも、系図譜とはそもそも何なのだろうか。系図譜を単純に「血脈や血縁の記録書面」などというのは、簡単なようだが問題がある。系図と系譜では外観が異なるし、「血脈」は、尊属卑属の垂直方向を指すニュアンスがあるように思われるが、系図譜はそれだけではなく、横方向の姻族関係も含めたものもあることから、「血脈」は少しズレている。また、夫婦養子が記載された系図譜を含みうる定義である必要があるのにもかかわらず、「血脈」や「血縁」はそれを除外しかねない。

 複数の人名が線で繋がっているというような系図譜上の様式ないし外観があるというような外形的な特徴だけで系図譜と判定してよいかといえば、「法脈」などの地位継承次第や学問技芸の系統図といった非血縁的記録を明確に除外する必要がある以上、内容面で区別する必要がある。

 ところが、一口に内容といっても、(2)ウで紹介するとおり、論者によって様々な定義がなされているものの、統一されているとは言いがたい。それでも、我々が対象物を目にしたときに「これは系図譜だ」と認識し、その認識は一般に共通するのだから、系図譜であると認識するための判断基準が存在するはずである。そのような判断基準は、系線を用いて図示する系図と、文章のみで表現する系譜(これらの定義については用語論で詳述する)と、さらにそれに準ずるもののいずれにも通底するものであるはずである。そして、そのような判断基準は、単なる要件論にとどまらず、系図系譜学の学問対象の核心的部分を画定する機能を有する。

 そこで、そのような判断基準は何か、すなわち系図譜の内容的実質は何か、そして、それをどのような概念用語として表現するかも問題となる。

 本セクションでは、これらの観点から、系図譜の性質を解析する。その際、目的論及び対象論との関係で、系図譜上の記載に関する真偽・省略等について比較分析する研究のみならず、そもそも戸籍や古文書から系図譜を作成することを目的とする研究や、複数の系図譜を接続する研究、また、記載内容と実際とを概念上分離して扱えるよう、概念を抽象化する。

 なお、系図譜は、全ての概念の出発点であることから、最初に定義する必要があるところ、系図とは何か、系譜とは何かという「系図」「系譜」自体の定義については用語論で詳述することとし、ここではあくまで学問対象としての系図譜の内容的実質が何かを先取りして明らかにする。また、系図譜の形態的分類については様式論において明らかにする。

(2)先行研究における系図譜の定義

ア 問題の所在

 まず、先行研究において系図譜がどのようなものとして定義されてきたかが問題となる。

イ 定義の要件と妥当性の判定方法

 定義は、想定している対象が定義内で列挙された要件に該当するだけでなく、不明瞭な文言がなく、想定しないものが該当しないような要件ないし文言で構成される必要がある。

 そのため、辞書や先行研究における定義を次の通り列挙した上で、系図譜が各定義に該当するか(定義該当性)、そして文言が過度に広汎かつ曖昧になっていないか(過度広汎性(Overbreadth)及び明確性(Void for Vagueness))、含むべき者を除外していないか、論理的整合性はあるか、という観点から批評した。そして、系図譜の内容的実質を検討するための注意点を抽出した。

ウ 先行研究における系図譜の定義の整理と限界

(i) 角川新版日本史辞典説

 管見の限り、系図譜についての辞書の説明は以下のとおりである

 『角川新版日本史辞典』は、系図について「系譜とも。個人間の伝承関係を始祖から書き連ねた表。血統・家系を示したものが多いが、法系・学統や芸能・職務・所領等の相承を示す系図もある」と定義した

 「始祖から書き連ねた」は時系列性と、「血統・家系を示した」という範囲は、一応説得的である。

 しかし、この定義には問題が4点ある。

 ①「個人間の伝承関係を始祖から書き連ねた」「血統・家系を示したものが多い」とあるところ、伝承を言い伝えと解した場合、現実に目の当たりに下親や祖父母、子孫や戸籍等が「言い伝え」に含まれると解することはできないから、系図譜の作成者にとって遙か昔の先祖のみを記載したものに限定されることになって不当であるし、伝承を社会的地位の継承と解した場合、社会的地位を継承しなかった血縁関係者が記載されている系図譜が多数存在することを説明できないから不当である。

 ②「法系・学統や芸能・職務・所領等の相承を示す系図」については、これらは前任者から後任者への地位の移転等を示す地位継承次第や学問技芸等の影響関係を示す学統図などであって(これらについては用語論で詳述する。)、Wikipediaの歴代内閣総理大臣や歴代学長の一覧表などもこの定義に該当することになるが、そのようなものを系図譜と解する者はおそらくいないから、不当である。

 ③ 「書き連ねた表」とあるが、系譜(文章形式で記述されたもの)を排除しているように読める。系図と系譜の定義については用語論で検討するが、形式を「表」に限定するのは不当である。

 ④「始祖から」とあるが、始祖が判明しなかったために始祖を記載していない系図譜が除外される。

 よって、伝承や法系・学統や芸能・職務・所領等の相承を系図譜の要素・性質として位置づけるべきではない。

(ii) 青山幹哉説

 青山幹哉は、広義の系図を「一定条件に該当する人物名を経時的に連鎖させて記したもの」をいい(以下、この広義を「青山第一定義」という。)歴名や補任帳等を含むものとし、狭義の系図を「親子関係(擬制を含む)に該当する人物名を経時的に連鎖させて記したもの」をいうと定義した(以下、この狭義を「青山第二定義」という。)

 「経時的に連鎖させて記した」という要素は、説得的である。

 しかし、青山第一定義には問題が2点ある。

①「一定条件」とはどういう条件なのかが不明であり(不確定概念)、定義上の恣意性を排除できない。

②「歴名や補任帳等を含む」点で、職員名簿や叙位叙任・人事異動の記事を載せた官報などもこの定義に該当することになるが、そのようなものを系図譜と解する者は、定義者である青山を除いて、おそらくいないから、この定義は広きに失し、不当である。この定義は、系図譜の定義ではなく、「複数年度にわたる名簿」の定義である。

 また、青山第二定義には、問題が2点ある。

③範囲が限定されていないため、客観的・網羅的な親族関係データベースを含むものの、氏族・一族・家系に属する特定の範囲の人物に限定されているという系図譜の一般的特徴を表現できていない。

④「親子関係(擬制を含む)」とあるため、確かに実親子関係・養親子関係をカバーしており、それには子の実父母又は養父母をもカバーしうるから、一見すると配偶関係も表現できているかのように思われるかもしれないが、子のない配偶者と姻族については記載の対象外となる。

 また、青山は、「系図とは、系図作成者が作成時点において「かくあった」ないし「かくあるべし」と考えた一種の歴史叙述という史料的性格をもち、さらに後代の追加・補訂によって当初とは異なる要素が混入し、複合的な記録となる可能性も高い史料である。」とも定義した(以下、これを「青山第三定義」という。)

 「系図作成者が作成時点において「かくあった」ないし「かくあるべし」と考えた」すなわち系図作成者の作成時点における意図ないし主観の要素を指摘したことについては、説得的である。

 しかし、青山第三定義には、問題が2点ある。

 ⑤「一種の歴史叙述という史料的性格」というのは歴史学ないし史料学的観点からの性質を述べたに過ぎず、汎用的ではない。

 ⑥「後代の追加・補訂によって当初とは異なる要素が混入し、複合的な記録となる可能性も高い」という点は、定義ではなく傾向を示したに過ぎない。

 さらに青山は、「家系とは、家の第一祖から家の長としての地位(「家督」と称すことが多い)を継承していった子孫の系統 (嫡流)を過去から現在にいたる家の継続性と重ねて意識したとき、嫡流と他家へ婚姻・養子等により転出していない子を含めた家構成員を指す概念である。そして、家系を称する場合には、家祖から自己に至る一系が意識され、家への帰属感、家の永続性、家の名誉、といった諸観念が含意されていることが多い。」と家系を定義した上で、「家系図とはその家系に属する家構成員を記載した系図であ」ると家系図を定義した(以下、これを「青山第四定義」という。)

 第四定義は、家系図に限定したものであって、氏族や一族という範囲の系図譜全般の定義ではない。「家系」の語が「家系図」の定義に組み込まれているため、「家系」の定義を合わせると、「家系図とは、家の第一祖から家の長としての地位(「家督」と称すことが多い)を継承していった子孫の系統 (嫡流)を過去から現在にいたる家の継続性と重ねて意識したとき、嫡流と他家へ婚姻・養子等により転出していない子を含めた家構成員を記載した系図である」ということになる。

 青山第四定義は、選択された親族関係の人的範囲を時系列的に記載したことを含意する点では、説得的である。

 しかし、青山第四定義には、問題が4点ある。

⑦「家の継続性と重ねて意識したとき」という奇妙な表現を用いている。

⑧「系統」という範囲が曖昧な表現を用いている。

⑨「家の第一祖から家の長としての地位(「家督」と称すことが多い)を継承していった子孫の系統 (嫡流)」すなわち家督継承者に加えて「嫡流と他家へ婚姻・養子等により転出していない子」を記載したものと定義しているため、他家へ婚姻・養子等により転出した子が記載されているものが除外され、かなり多くの系図がこの定義から外れることになる。

⑩「他家へ婚姻・養子等により転出していない」あるいは「他家へ婚姻・養子等により転出していない子孫」ではなく「他家へ婚姻・養子等により転出していない」と定義しているので、誰の子なのかが定義上不明になっている(歴代当主の子なんだろうという読者が推測することに期待しすぎている)。

 以上、青山の各定義からいえることは、汎用的ではない性質・傾向や不確定概念を排し、系図譜がきちんと定義に該当するよう範囲を拡張しつつも、単なる名簿が該当しないよう範囲を限定し、かつ親子関係のみならず、子のない配偶者と姻族もカバーしうる定義でなければならないということである。

(iii) 佐伯有清説

 佐伯有清は、系図を「古代氏族・中世家族などの系統・続柄を始祖に遡って歴代の人名・事跡を書き記したもの。系譜ともいう。」と定義した(以下、「佐伯第一定義」という。)

 この定義は、「古代氏族・中世家族など」という一応の範囲を示し、「続柄」の要素を明示し、「歴代の」の語で時系列性を示し、「人名・事跡」という点でデータ性を示しているため、基本的には説得的である。

 しかし、この定義には問題が4点ある。

①「始祖に遡って」とあるが、必ずしも始祖に遡れた系図譜や始祖を捏造したばかりではなく、現代の先祖調査によって作成された家系図のように、始祖不明として中途の人物から書き出さざるを得なかった正直な系図譜もあることを無視している。

②「系統」という範囲が曖昧な表現を用いている。何らかの定義付けをする必要があるが、佐伯は定義付けをしていない。

③「古代氏族・中世家族などの」という一応の範囲を示してはいるが、(ii)③と同様、古代氏族全体を範囲とする系図譜ばかりでなく、氏族・一族・家系に属する特定の範囲の人物に限定されている系図譜の方がむしろ多いにもかかわらず、そのような系図譜の一般的特徴を表現できていないし、古代・中世という語を前面に出しているため、近世~現代を除外しているかのような印象を生じさせかねない。

④「人名・事跡を書き記した」とあるが、事跡(経歴や業績)の記載は系図譜の必須要素ではない。人名と続柄のみを簡潔に記した系図も多数存在するため、「人名・事績その他の情報」と曖昧にするのではなく「事跡」を定義に明示的に含めるのは過剰である。

 よって、始祖から始まるものに限定すべきではなく、「系統」の語を定義付けるか排除するべきであり、範囲に関する説明を精緻化する必要がある。

  また佐伯は、系図を「氏族・家族の血縁関係を始祖から歴代にわたって書きあらわしたもの。系譜ともいう。「系」は血筋のつづきを示し、 「図」はえがくの意。「譜」も系図と同意語。系図には氏系図・家系図のほか、国造・神主、 寺院の別当・住持の継承を示したもの、あるいは学芸の道統、荘園・宝物の相伝を記した系図もある。」とも定義した(以下、「佐伯第二定義」という。)。宝賀寿男もこの定義を支持している

 この定義は、「氏族・家族の」「血縁関係」という一応の範囲を示し、「始祖から歴代にわたって」の語で時系列性を示している点では、基本的には説得的である。

 しかし、この定義には問題が4点ある。

⑤①と同様の問題がある。

⑥「血縁関係」は、子のない配偶者と姻族、養親子関係については記載の対象外となる。

⑦「「系」は血筋の続きを示し」と定義したのに、「国造・神主、 寺院の別当・住持の継承を示したもの、あるいは学芸の道統、荘園・宝物の相伝を記した系図もある。」という血縁とは本来的に無関係であるはずの地位継承次第をも系図(血筋のつづきをえがいたもの)として定義しており、自己矛盾している。

⑧「「譜」も系図と同意語」ということであるから、「系譜」の語にこれを代入すると、「系譜」=「系系図」となって意味不明となる(「系譜」の「系」が脱字しただけの可能性もある)。

 よって、系図譜を氏族・家族・血縁関係等の語を用いて定義するなら、系図譜と地位継承次第とは別物として明記しなければならない。

(iv) 亀長洋子説

 亀長洋子は「家系に関わる情報に言及がみられるさまざまな史資料の総称」と定義した。「家族・血縁関係にかんする情報を提供する」という解説もしている

  「さまざまな史資料の総称」という要素は、いわゆる系図譜の外観をしていないものも含むものであり、6(1)における問題点に対しては、一応説得的である。

 しかし、この定義には問題が4点ある。

 ①「さまざまな史資料」」に該当する範囲が極めて広くなりすぎて、いわゆる系図譜としては想起されないものも含むから、系図譜の要素・性質としては不当である。

 ②「家系」に限定している点で、氏族や一族といった家系よりも大きな単位が記載された系図譜を除外している。

 ③家系の範囲を限定していないため、すべての家系を対象とすることになり、客観的・網羅的な家系情報データベースを含むものの、作成者が選択した特定の氏族・一族・家系に属する特定の範囲の人物に限定されているという系図譜の一般的特徴を表現できていない。

 ④時系列的要素を欠くため、一時点の情報あるいは時期とは無関係の情報しか書かれていない史資料(例えば、「この家系の墓地は、○○墓苑に存在する」というメモ書きや家訓)を排除できない。

 ⑤解説を抜きにすると、親子関係・婚姻関係等によって結合されているという系図譜の本質的要素が定義に含まれておらず、④と同様の問題があるから、当該解説部分を定義に入れ込む必要がある。

 よって、範囲に関する表現を精緻化し、かつ時系列的要素を付加する必要がある。

(v) 鈴木正信説

 鈴木正信は、系譜を「政治的地位や血縁など、何らかの継承関係を伝える資史料の総称」ないし「政治的地位や血縁など何らかの継承の次第を伝える史資料」と定義した。

 「資史料の総称」という要素は、(iv)と同様、いわゆる系図譜の外観をしていないものも含むものであり、6(1)における問題点に対しては、一応説得的である。また、「継承関係」の語で、一応の時系列性を表現できてはいる。

 しかし、この定義には問題が6点ある。

 ①「何らかの継承関係」「何らかの継承の次第」では、社会的地位等の目立つものを継承しなかった血縁関係者が記載されている系図譜が多数存在することを説明できない。

 ②「何らかの継承関係や血縁関係」ではなく「血縁など、何らかの継承関係」という文言になっているため、「血縁」が「継承関係」の並列ではなく例示となっており、血縁は継承するものではないため、不当である。

 ③「何らかの継承関係」が「政治的地位や血縁など、」と例示はされているものの、不確定概念であるし、範囲が広くなりすぎる。

 ④「政治的地位」については、(i)②と同様、Wikipediaの歴代内閣総理大臣の一覧表などもこの定義に該当することになるが、そのようなものを系図譜と解する者は、おそらくいないから、不当である。

 ⑤(iv)①と同様の問題がある。

 ⑥(ii)③と同様の問題がある。

 よって、範囲に関する表現を精緻化する必要がある。

(vi) 太田亮説

 太田亮は、「系図とは、普通・血系、家系を載せた書き物を指す」と定義した。血系については、「血系と云ふのは、実際の血筋」と定義した。義江明子も基本的にこの定義に従うという

  「血系、家系を載せた」「書き物」という要素は、一応は説得的である。

 しかし、この定義には問題が4点ある。

①「家系」の語には、(iv)①と同様の問題がある。

②「血系」の語には定義がないため、これが自然血族を意味するとすると、子のない配偶者と姻族、養親子関係については記載の対象外となる。

③「血系」と「家系」の範囲の限定がないとすると、(ii)③と同様の問題がある。

④「血系、家系」から時系列的に記載されているという雰囲気を感じ取ることはできるが、時系列的な記載がなされているという特徴がこの定義文には含まれていない。

 よって、時系列的に記載することを明示し、範囲に関する表現を精緻化する必要がある。

(vii) Lorenz説

 Lorenzは、Stammtafel(系譜表・系図)とAhnentafel(祖先表)とに区別した上で、Stammtafel(系譜表・系図)とは、「Der Begriff der Stammtafel umfaßt nur solche Darstellungen von Blutsverwandtschaften, die sich im Kreise der Descendenten d. h. jener Geschlechtsreihen bewegen, die vom Elternpaare ausgehen, die abstammenden Kinder aufzeichnen und diese immer wieder in ihren elterlichen Eigenschaften als Väter oder Mütter neuer Geschlechtsreihen betrachten.(系譜表の概念は、血族関係のうち、子孫(Descendenten)の範囲内にある、すなわち、夫婦から出発し、子孫たる子供を記録し、これらを常に父又は母としての性質において新たな世代系列の父母として考察する世代系列の表示のみを包含する。)」であり、Ahnentafel(祖先表)とは、「Im Gegensatze zur Stammtafel stellt sich der Begriff der Ahnentafel als die Darstellung der Ascendenten dar, d. h. der Väter und Mütter eines oder mehrerer durch geschwisterliche Bande verbundener Individuen, und zwar in der Weise, daß die Eltern des Elternpaares, und immer wieder in aufsteigenden Linien deren Väter und Mütter zur Kenntnis gebracht werden.(「系譜表とは対照的に、祖先表の概念は、祖先(Ascendenten)の表示として、すなわち、兄弟姉妹の絆で結ばれた一人又は複数の個人の父及び母の表示として、しかも、夫婦の両親、そして常に上昇する系統においてその父及び母が認識されるという方法で表される。)」と定義した

 要するに、Stammtafel(系譜表)とは、特定の夫婦から下って子孫を記載したものであり、Ahnentafel(祖先表)とは、特定の個人から遡って祖先を記載したものということである。

 これら定義は、親子関係にある人々を時系列的に記載するという要素は、一応は説得的である。

 しかし、この定義は、第二定義と同様の問題がある。

(viii) 仓修良説

 仓修良は、「谱学随着其产生发展而有家谱或曰族谱,亦称宗谱、统谱和年谱。家谱是记一家一姓的世系和人物的事迹,实即一家一姓的历史。家谱乃是以表的形式表示家族世系之蕃衍。而这种世系表,渊源甚早,一般都推始于《周官》。(譜学はその発生・発展に伴って家譜または族譜があり、宗譜・統譜・年譜とも称される。家譜とは一家一姓の世系と人物の事跡を記録するものであり、実際には一家一姓の歴史である。家譜とは表の形式で家族世系の繁衍を表示するものである。)」と定義した。要するに「一家一姓の世系と人物の事跡を記録した表形式の一家一姓の歴史」ということである。

 これは中国の系図譜についての定義であるが、「一家一姓の世系と人物」「歴史」という点で、特定の家系ないし氏族とその人物という範囲と人物間の関係が示され、時系列的な記載と見ることができ、データ性をも示しているため、基本的には説得的である。

 しかし、この定義には問題が5点ある。

①(iii)④と同様の問題がある。

②(i)③と同様の問題がある。

③「一家一姓」という表現なので、姻族が含まれない可能性がある。

④(vi)②と同様の問題がある。

⑤「歴史」の語は多義的であり、表現として妥当と言いがたい。

 よって、各表現を精緻化する必要がある。

 

(ix) 久野俊彦説

 久野俊彦は、家譜について「家の系譜。歴代の続柄・経歴・事績を文章に記したものという点が系図に比される特徴である。」と定義した

 「歴代」の「続柄」という要素は、妥当である。

 しかし、この定義には問題が3点ある。

①系図においては「歴代の続柄」が必ず系線で示され、「経歴・事績を記したもの」も少なくないのであるから、「歴代の続柄・経歴・事績を文章に記したもの」が系図にはないかのような書き方はおかしい。

②家譜についての定義なので、氏族や一族といった広範囲のものについては該当しない。

③「歴代」にどの範囲の人物が含まれるのか、当主に限っているのかが明らかでない。

 よって、氏族や一族といった広範囲のものも含みうる表現としつつ、どういった範囲の人々を記載するのかを明らかにする必要がある。

(x) 網野善彦説

 網野善彦は、「系図・系譜は、ある時点における特定の集団、あるいはまれに個人の自らに関わる歴史叙述の一形態と考えることができる。例えば系図は、氏、一門、家、個人がいかなる祖先に出自し、どのような経緯を辿ってその時点にまでいたっているか、また自らと関わりのある範囲がどこまで及んでいるかを表現しており、結果として一定の範囲の血縁で結ばれた集団の出自、範囲、その内部の小集団の関係を図示したものといえよう。」と定義した

 「特定の集団」「氏、一門、家、個人」「自らと関わりのある範囲がどこまで及んでいるかを表現」「一定の範囲の血縁で結ばれた集団の出自、範囲、その内部の小集団」という範囲的表現がある点、「いかなる祖先に出自し、どのような経緯を辿ってその時点にまでいたっているか」という時系列的表現がある点、「関係を図示」という範囲内の人の関係性に一応言及している点は、説得的である。

 しかし、この定義には問題が2点ある。

①「歴史」という実は多義的な語を定義付けなしに適用している。

②定義文というより説明文的であって、要件がわかりにくい。

 

(xi) 菅野雅雄が紹介した説

 菅野雅雄は、「学問的には、「系譜」と「系図」は同意で、氏族・家族の血縁関係を始祖から歴代にわたって書き表わしたものである、という。」と、定義を紹介した

 「氏族・家族の」という範囲的表現、「歴代」という時系列的表現は、説得的である。

 しかし、この定義には問題が2点ある。

①「血縁関係」に(vi)②と同様の問題がある。

②「始祖から」とあるが、始祖が判明しなかったために始祖を記載していない系図譜が除外される。

(xii) 吉岡吾郎説

 吉岡吾郎は、系譜・系図について、「血族の関係を、主として親子の間を系で繋ぐ形で示したもの。閲歴等に関して文章で述べる形のものを一般に系譜と称し、これに対して閲歴などはあっても注の形で最小限に止められている形のものを系図とよぶことが多い。女子については、概して省略されるか、男子のあとに「女子」とのみ書かれる。」と定義付けした

 この定義には問題が3点ある。

①系図のみならず系譜の定義であるはずなのに「系で繋ぐ形で示した」という、系図のみを念頭に置いた記載をしている。

②「血族の関係」に限定しているため、子のない配偶者と姻族については記載の対象外となる(法定血族を含むのであれば、養子縁組関係は記載の対象となりうる。)。

③「女子については、概して省略されるか、男子のあとに「女子」とのみ書かれる。」というのも、女性名を記載するものを不当に除外している。

 

(xiii) 近藤安太郎説

 近藤安太郎は、系図譜について、「数代ないし数十代にわたる代々の親子・兄弟の関係を示したもの」と定義した

 この定義には否定すべき表現はないが、問題が4点ある。

①「親子・兄弟の関係」としか書いていないため、子のない配偶者と姻族については記載の対象外となる。

②姉妹や子のない配偶者やその姻族を除外している。

③作成者・研究者が記載範囲を選択したという前提が欠けている。

④「関係」としか書かれていないので、続柄関係に限定できず、人間関係、例えば対立関係などを記載した文書も該当することになる。

(xiv) 岩本・八木説

 岩本卓也・八木大造は、下記の通り定義した

  • 家譜「系譜、家系譜、家譜、系図、家系図など一般的には同じ意味です。本書ではわかりやすいように系譜、家系譜、家譜を同じ意味と考え名前、出生年月日、没年月日のほか、経歴や残した功績、その他のエピソードなどを個人ごとに表でまとめたものを「系譜」と呼ぶことにします。」
  • 家系図「系譜、家系譜、家譜、系図、家系図など一般的には同じ意味です。わかりやすいように本書では家系図という表現に統一しています。家系図とは家の先祖から子孫に至る一族の系統を書き記した図のことを言います。但し、家系図には養子として家督を継いだ者も含まれますので、家系図イコール血統(血筋)の図とはなりません。」
  • 家系譜「系譜、家系譜、家譜、系図、家系図など一般的には同じ意味です。わかりやすいように本書では家系図という表現に統一しています。」
  • 系図「系譜、家系譜、家譜、系図、家系図など一般的には同じ意味です。わかりやすいように本書では家系図という表現に統一しています。」
  • 系譜「系譜、家系譜、家譜、系図、家系図など一般的には同じ意味です。本書ではわかりやすいように系譜、家系譜、家譜を同じ意味と考え名前、出生年月日、没年月日のほか、経歴や残した功績、その他のエピソードなどを個人ごとに表でまとめたものを「系譜」と呼ぶことにします。」

  要するに、系譜、家系譜、家譜、系図、家系図の種別を挙げ、一般的には同じ意味だとして、家系譜は家系図という表現に統一するとしつつも、家系譜に似た家譜と系譜については別の定義をするという統一感のない定義をしているわけである。これを一応整理すると、家譜と系譜は「名前、出生年月日、没年月日のほか、経歴や残した功績、その他のエピソードなどを個人ごとに表でまとめたもの」だが、家系図・家系譜・系図については、「家系図とは家の先祖から子孫に至る一族の系統を書き記した図のこと」で、「家系図には養子として家督を継いだ者も含まれますので、家系図イコール血統(血筋)の図とはなりません。」ということになる。

 「先祖から子孫に至る」という点で時系列性を示し、「名前、出生年月日、没年月日のほか、経歴や残した功績、その他のエピソードなど」とデータ性を示している点で、一応説得的ではある。

 これらの定義には問題が4点ある。

①家譜と系譜の定義については、確かに生没年月日や経歴功績等も記載されているが、表でまとまっているものは管見の限り少ないし、氏族単位とか家系単位といった範囲が特定されていない。

②家系図等の定義については、「家の」に限定しているため、氏族単位の系図譜を除外しているし、逆に「家の」に限定しているのに「一族の系統」といっており、範囲が矛盾している。

③「系統」という範囲が曖昧な表現を用いている。

④「養子として家督を継いだ者も含まれますので、家系図イコール血統(血筋)の図とはなりません。」については、養子とその配偶者の子孫が記載され、配偶者より前の代の人物が記載されているならば、血統(血筋)の図となるのであり、養子の前後で血統(血筋が異なるのは、前代とは血縁関係のない夫婦が養子となったケースであることを読み取ることのできない記載になっている。

(xv) 飯沼賢司

 飯沼賢司は、「系譜史料は、系譜を探ることができるあらゆる史料であり、近年では、このような系図・家譜・由緒書の類ばかりではなく、もっとさまざまなものが系譜史料として考えられるようになった。(中略) 第一は、系図や家譜や由緒書など、ある意図をもって編纂された史料である。(中略) 第二は、文字史料ではあるが編纂された史料ではないもの。姓や名前といった第一タイプの中心となる系譜史料である。(中略) 第三は、墓やそこに葬られる骨などの史料であり、これらは考古学との関連から近年注目される史料である。」と定義づけた

 この定義は「史料論」すなわち歴史学における議論であるから、「史料」の語が用いられており、系図系譜学の議論には適合しない部分が大きいが、参考までに取り上げた。

 この定義には問題が5点ある。

①全体を通して、内容的実質がほとんど表現されていない。

②「系譜史料は、系譜を探ることができるあらゆる史料」とあるが、「系譜」が何なのかを「ある意図をもって編纂された」という以外定義していない。

③「ある意図をもって編纂された史料」とあるが、全ての編纂物は必ず何らかの意図をもって編纂されたはずであるから、意味のない表現である。

③「文字史料ではあるが編纂された史料ではないもの。」という奇妙な表現をしているが、「編纂」を研究や編集の意味だとすると、「編纂された史料ではないもの」とはメモ書きとか日記とかいうものを指すのかもしれないが、そうであれば、そう定義するべきだし、見聞を書き継いだ系図も存在しうる点で不当である。

④第二タイプの定義であるのに「姓や名前といった第一タイプの中心となる系譜史料である。」という定義付けをしている点で完全に矛盾している。

⑤骨がなぜ系譜に関係するのかが完全に不明である。

(xvi) 上田晃説

 上田晃は、系図を「系譜を系線によって図式化したもの」と定義したが、系譜の定義は掲載されていない

 系譜の定義がない以上、系図の定義文は外形的特徴だけを定めた中途半端なものであり、内容については不明と言わざるを得ない。

(xvii) 小笠原長和説

 小笠原長和は、「系図とは系統を図示することで、系は繁・継を意味し、血統や家系を示すために作られた書物である」と定義した

 この定義は、「血統や家系」という一応の範囲や関係性を示している点では、一応は説得的である。

 しかし、この定義には問題が5点ある。

①時系列性を示す要素が「血統や家系」であって弱い。

②「系図とは系統を図示することで、」の部分について、「系図とは」の後に読点がなく、また、その後に「系は繁・継を意味し、」という「系図とは」が掛からない文が存在するため、「系図」=「系統を図示すること」というように系図の語が動詞であるかのような定義文になっている。これは仮に「系は繁・継を意味し、」がなかったとしても、「系図とは系統を図示することで、血統や家系を示すために作られた書物である」となって「系統を図示することで、血統や家系を示すために」という似たような修飾語が並ぶことになって奇妙である。さらに「血統や家系を示すために」も除外して修飾関係を解析しても、「系図とは系統を図示することで、作られた書物である」となって繋がりが悪い。「系図とは、血統や家系を示すために作られた書物である」であれば文法的には妥当である。

 よって、文法的におかしな定義を採用することはできない。

(xviii) 『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』

 『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』は、系譜について「親子関係の連鎖をさし,またはそれを記録した図や文書をいう。」と定義し、系図について「血縁関係をはじめ,財産,地位,学芸などの継承関係などを明らかにする系譜を図式の形で表現したもの」で、「(a) 血縁の継続関係を示すもの」と「(b) 血縁関係以外の系図には,宗教上の系統を示す伝法血脈,仏舎利継承系図,宗派図,諸寺院の別当,住持などの系図,学芸面における和歌の道統歌,琵琶の相承系図,財産としての荘園所領の相続を示す伝領系図などがある。」の2種類があると定義した

 この定義には問題が5点ある。

①系譜の語について「親子関係の連鎖」と「それを記録した図や文書」「血縁関係をはじめ,財産,地位,学芸などの継承関係などを明らかにする」の3義を定めている(これについては、用語論で詳述する)。

②「親子関係」に限っているため、子のない配偶者やその姻族を除外している。

③「血縁関係」に限っているため、子のない配偶者やその姻族を除外している。

④「血縁関係以外の系図」を含めている。

⑤「財産,地位,学芸などの継承関係など」として、地位継承次第等を含めている。

 よって、子のない配偶者やその姻族を除外したり、地位継承次第等を含んだりしているだけでなく、系譜について3つの定義をしている点で、用語定義の不統一の問題がある。

(xix) 『精選版 日本国語大辞典』

 『精選版 日本国語大辞典』は、系譜について「① 血縁などのつながりを示す記録や表。家譜。系図。② もののつながり。系統。」と定義し、系図について「① その家の先祖から代々の系統を書き記した表。系譜。家譜。譜図。② 由来。由緒。来歴。履歴。③ 黒鯛(くろだい)のこと。かいず。」と定義している

 まず、系譜の定義には問題が少なくとも2点ある。

①2義を定めている。

②「など」といって範囲を曖昧にしている。

 次に、系図の定義については、「その家の先祖から代々の」という文言で時系列性を示している点では一応説得的であるが、問題が3点ある。

①3義を定めている。

②「系統」という範囲が不明確な語を用いている。

③「家の」に限定しているため、氏族を範囲とするものを除外している。

(xx) 『百科事典マイペディア』

 『百科事典マイペディア』は、系譜について「現在の地位の正当性を説明するために過去の系統をのべたもの。」と定義し、系図について「系譜を図示したもの。」と定義している

 「過去の」と一応の時系列性を示した点で、一応の説得力がある。

 この定義には問題が2点ある。

①必ずしも「現在の地位の正当性を説明するため」という目的があるものではない。

②「系統」という範囲が不明確な語を用いている。

 

(xxi) 『図書館情報学用語辞典 第5版』

 『図書館情報学用語辞典 第5版』は、系譜について「個人,氏族,家族,集団などの続き,継承の関係を書き表したもの.系図ともいう.個人,氏族,家系の系譜は,血縁関係を始祖から歴代にわたって書き表したもので,氏系図,家系図,家譜などともいわれる.集団については,教会,寺院の司祭,別当,住持などの継承関係を示したものや,武芸,学問,芸術の秘伝などの継承関係を示したものがある.また,宝物や特定の土地,荘園などの相続関係を記したものもある.」と定義している

 「始祖から歴代にわたって」という文言で時系列性を示している点では説得的である。

 しかし、この定義には問題が6点ある。

①「など」といって範囲を曖昧にしている。

②「続き」という奇妙な表現を用いている。

③何の「継承の関係」なのかが明らかでない。

④「血縁関係」に限っているため、子のない配偶者やその姻族を除外している。

⑤地位継承次第等を含めている。

⑥「始祖から」とあるが、始祖が判明しなかったために始祖を記載していない系図譜が除外される。

(xxii) 加藤秀幸説

 加藤秀幸は、系図について「混用して系譜ともいう。先祖から代々の血統,続柄,家系を記述した文書をさす。狭義には,系譜は次第を追って血統と子孫の各個人の事歴を記述したものであるが,系図は血縁の継続状態をとくに系線によって図示し,そのつながりを一見して理解しうるようにしたものである。のち広義には系譜,家譜をも含め,家に付属する財産,所領,職業の継承を特記し,さらに僧侶の法脈・血脈(師資相承),寺院の住持の歴代,学術・武術をも含む諸芸の伝統をも表したものをいう」と定義している

 「先祖から代々の」という文言で時系列性を示している点、「続柄」という関係の性質を示した点では説得的である。

 しかし、この定義には問題が2点ある。

①「血統,続柄」という文言が、子のない配偶者やその姻族を含むのかが明らかでない。

②「血統,続柄」という文言があるが、「家系」も並記しているため、氏族を範囲とするものを除外するのかが明らかでない。

③「血縁の継続状態」がなぜ系図には認められて系譜には認められないかの合理的理由が考えられない。

④「血縁」は「血のつながり」というような意味であるから、「継続状態」を観念できない。離縁・離婚の場合には配偶者、姻族や養親子関係との継続関係を観念できるが、これらは「血縁」とは言いがたい。

(xxiii) 『デジタル大辞泉』

 『デジタル大辞泉』は、系譜について「1 先祖から子孫に至る一族代々のつながり。師弟関係などのつながり。また、それを書き表した図や記録。系図。2 同じような要素・性質を受け継いでいる事物のつながり。」と定義している

 「先祖から子孫に至る一族代々の」という文言で時系列性を示している点では説得的である。

 しかし、この定義には問題が2点ある。

①2義を定めている。

②地位継承次第等を含めている。

(xxiv) 『日本大百科全書(ニッポニカ)』 

 『日本大百科全書(ニッポニカ)』は、系図について「祖先を記し、子孫の系統を明らかにするために、家系を図式化して示したもの。系譜、家譜(かふ)ともいう。」と定義している

 しかし、この定義には問題が2点ある。

①「家系」に限定しているため、氏族を範囲とするものを除外している。

②「系統」という範囲が不明確な語を用いている。

(xxv) 『旺文社日本史事典 三訂版』

 『旺文社日本史事典 三訂版』は、系図について「先祖から代々の縦横の相互関係を書いた図表」と定義している

 「先祖から代々の」という文言で時系列性を示している点では説得的である。

 しかし、この定義には、「縦横の相互関係」が意味不明で、どういう範囲の人が記載されているか、相互関係とは続柄、感情的な、関係経済的依存関係その他のどの関係を意味するのかが明らかでないという問題がある。

(xxvi) 『日本民俗事典』

 『日本民俗事典』は、系図について「祖先代々の系譜関係を書き記した図表。」と定義し、系譜について「通例は家または血統の継承の序列、もしくはその記録」で「家の系譜とは特定の家の祖先との一定の位置関係を示すもので、その家に出生した者だけでなく、出生時には他の家の成員であった者でも、婚姻・養子縁組によってその家の成員になる際に「オヤコの縁結び」によって、系譜関係が設定されることがある。」、さらに「家の本来の系譜とは『家の創設・分岐にあたって、いわば本家と分家との間に相互にその出自を認知し合うことによって設定される関係』」と定義した上で、「家の系譜においても、また家の本来の系譜においても、生物学的な血縁関係者以外にも系譜関係が設定される」と説明している

 「祖先代々の」という文言で時系列性を示し、かつ、 「その家に出生した者だけでなく、出生時には他の家の成員であった者でも、婚姻・養子縁組によってその家の成員になる」「生物学的な血縁関係者以外にも」という点で婚姻・養子縁組も記載対象となりうることが示されている点で、説得的である。

  しかし、この定義には問題が2点ある。

①「系譜関係」という文言において「系譜」の語が親族と同様の意味で使われているため、中核概念の多義的用法の問題がある(用語論で詳述する)。

②「家または血統の継承」という文言は、「家の継承」と「血統の継承」に分解できるところ、前者については家督継承を指すと解されるが、家督を継承しなかった者をも含む系図譜を含まないことになり、それが後者に包含されるとしても、後者については、「血統」は「継承」されるものではないし、子のない配偶者やその姻族を含まない。

③「一定の」という不確定概念と「位置関係」という奇妙な表現が使われており、「特定の家の祖先との一定の位置関係」が意味不明である。

④「オヤコの縁結び」というおよそ一般的でない概念ないし比喩表現が用いられているし、これが養子縁組の比喩だとしても、養子縁組をしない単純な婚姻関係には当てはまらず、「婚姻によってその家の成員になる際に「オヤコの縁結び」によって、系譜関係が設定される」が成立しない。

⑤「家の本来の系譜」は、その説明から察するに本分家関係とか家筋のことであり、それらの語を使うことに何ら問題はないのに、わざわざ奇妙な文言で表され、かつ「「家の系譜」と紛らわしい概念を使用している点で合理性を欠く。

(xxvii) 『広辞苑 第7版』

 『広辞苑 第7版』は、系図について「①先祖から代々の系統を書きしるした表。系譜。家譜。②事物の来歴。由緒。由来。③クロダイの若魚の異称。かいず。」と定義し、系譜について「血縁関係や系統関係を図式的に記したもの。系図。譜図。②物や人のつながり。系統。」と定義し、系統については「(①・②・③省略)④一族間の血統。⑤〔生〕㋐生物の種あるいは群の進化の過程での由来。㋑祖先を共通とし、遺伝子型をほぼ等しくする生物の個体群。」と定義した

 「先祖から代々の」という文言で時系列性を示す点では説得的である。

  しかし、この定義には問題が4点ある。

①系図には「先祖から代々の」という文言があり、同義語として相互に「系譜」「系図」を挙げているのに、系譜の項には当該文言がない。

②「系譜」の第一義を「血縁関係や系統関係を図式的に記したもの。」すなわち記録体として定義し、同義語に「系統」を挙げているのに、「系統」の定義を「④一族間の血統」そのものとしているため、ズレている。

③「系統」も要するに「血統」を指すところ、「血統」の語は、子のない配偶者やその姻族を除外している。

④「系統」「血統」という範囲が不明確な語を用いている。

エ 小括

 以上のとおり、先行研究における系図譜の定義にはいずれも複数の欠陥があることが明らかになった。時系列性を欠くもの、範囲が広すぎたり不明であるもの、地位継承次第などを含むといったものである。

 特に、地位継承次第などは、『角川新版日本史辞典』・青山第一定義・鈴木説・『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』・『図書館情報学用語辞典 第5版』・加藤秀幸説・『デジタル大辞泉』以外は系図譜の定義に含めていないし、系図譜とは外形的に類似しているとしても、内容的性質は、職業等の地位の継承関係や学問技芸等の師弟関係を表示したものであって全く異なるから、これら地位継承次第、学統図、師弟関係図などは系図譜とは別物として扱うべきである。そして、親族関係を記載した系図譜と○○の継承関係を記載した系図譜といった説明的概念を作り出すと紛らわしいのだから、系図・系譜の語は親族関係を記載したものに限定し、継承関係・影響関係については地位継承次第などと呼称するべきである。そうすることで、不必要に議論が錯綜・混乱することを防止することができ、学問の精緻化に資することができる。これらを混同する青山らは、記載内容・性質よりも外見的特徴を重視し過ぎたか、彼らが取り扱っている系図譜のような外観の地位継承次第等の多くに事実上世襲による継承関係が記載されているという傾向を重視しすぎたもの(定義と一部の傾向との混同)と考えられる。なお、「系図」「系譜」の外形上の定義や地位継承次第等についての定義は、用語論で詳述する。

 他方で、 「始祖から代々の」というように尊卑属関係を時系列的に表現することはできているが、兄弟姉妹が記載される系図譜では、それも出生順に記載されるのに、それに触れた論者はいないし、そもそも明確に兄弟姉妹に言及した論者自体がほとんどいない。しかし、兄弟姉妹はしばしば記載されている。

 同様に、子のない配偶者やその姻族を含みうる定義をしていたものもあまりなかったが、地位継承次第等とは異なり、これらが記載されている系図譜に違和感を持つ者はいないはずである。

 兄弟姉妹や子のない配偶者やその姻族についての上記指摘に違和感を持つとすれば、自己が関心を持つ時期の一部の系図譜の記載のみを念頭に置いているがために、存在しうる系図譜ないし家族構成を想像できない・知らない者であろう。

 また、すべての定義は、人間に限定しておらず、動物の系図譜も対象に含まれうるものである。

 全体的に、いずれも各人なりの定義を記述しただけ、つまりイメージを提示したものであって、なぜそのような定義付けをしたのかの理由は全く示されていないこと、そもそもイで設定したような検討をしている様子が感じられないような定義ぶり(もっといえば、想起した言葉を「○○とは、~である。」という構文形式にさえ当てはめれば定義付けをしたことになるとでも安易に考えられているかのような印象を受ける)であること、そして、要素・性質を抽出することによって意味内容の範囲を定める定義(含むべきものを含みつつ、性質の異なるものを除外しうるものであり、該当するものしないものの判断基準となりうるもの)と、一部の事実上の傾向の記述とを混同していることも、学問上の議論としては問題がある。

 よって、いずれの説も採用することはできない。

(3)外形と内容

 系図譜の書面としての外形と内容のいずれに着目すべきかという問題がある。

 戸籍や古文書から系図譜を作成することを目的とする研究や、複数の系図譜を接続する研究、系図譜上の記載に関する真偽・省略等について比較分析する研究は、既成の記録書面/記録体に記載された情報とは別に、実際の情報がどうであったかを捉えることが共通の作業である。そのため、学問対象を既成の記録書面/記録体そのものを指すと解するのは相当ではない。

 また、単に系図譜に明示的に記載された人物の存否ないしその情報の真偽のみならず、家祖の親(出自)や妻など系図譜に記載されていない人物を発見して補完すること、ないし研究者自身が一から系図を作成することも含まれることから、「系図譜に記載された人物」に限定することも妥当でない。

 そこで、記録媒体から独立した情報概念として研究対象を設定する必要がある。

(4)系図譜の要素・性質分析

 思うに、系図譜とは、①作成者・研究者が選択した範囲に属する②続柄という関係性で結合していると認められる③人々の④時系列に基づく⑤データであると解される。

 すなわち、系図譜には、次の5つの要素ないし性質があると解される。なお、論理構成の都合上、上記丸数字と下記の検討順序は一致しない。

(i) 時系列性

 始祖から代々という尊卑属と、兄弟姉妹の出生順は、時系列に基づく記載として包括することができる。

 系図譜は、必ず、氏祖や家祖など作成者・研究者において判明した最も古い尊属から作成当時の最新の卑属までがその記載内容となっていることと、兄弟姉妹についても出生順に記載されていることから、時系列性がある。極めて小規模な系図譜でも、少なくとも親と子の名は書かれているから、時系列性は否定されない。

 逆に、時系列性が欠ければ、特定の時点の個人データとなるため、これを欠かすことはできない。

(ii) 続柄的結合関係

 血縁関係・姻族関係(子のない配偶者や事実婚配偶者その姻族を含む)・養親子関係すべてを包含しうる共通の概念は「続柄」である。

 系図譜に記載されている人物は、血縁関係・姻族関係・養親子関係によって結合し、任意の人物を基準とした続柄で表現することができる。逆に、続柄的結合関係という要素が欠ければ、血縁関係・姻族関係・養親子関係に限定されない過去から現在までの人々のデータとなり、会員名簿なども対象となるため、これを欠かすことはできない

 この関係を血縁関係、縁戚関係あるいは親族関係ではなく、続柄的結合関係と称するのは、AとBの関係、BとCの関係、BとDの関係といったミクロな視点を表現するには、縁戚関係や親族関係ではマクロ的に過ぎ、また日常語でもあるため学術的文脈において区別しにくいため、また、子のない配偶者と姻族が厳密には血縁関係とはいえないためである。生物学的(結合)関係としないのも同様の理由である。他方で、歴代内閣総理大臣一覧などの本来的に血縁関係を軸としないもの(地位継承次第)を除外する必要があり、続柄で繋がる関係であることを要素とする。

 ただし、続柄的結合関係とは別に縁戚関係や親族関係を独立の要素として挙げることは、検討に値するので、今後変更する可能性は残る。また、要素・性質としては「続柄的結合関係」としたが、次セクションにおいては、概念語としての簡明さを優先して「親族」の語を採用した。

 また、「連鎖的親子関係(養親子関係を含む)」といった表現も検討に値するが、子のない配偶者と姻族を含意できないため、採用することはできない。

 なお、当主位の継承関係については、確かに主軸ではあるが、通常の系図譜には歴代当主以外の多くの親族が掲載されており、当主位の継承関係をも軸とすると二重の基準を設けることになって妥当ではないから、下記のとおり、継承関係情報は個別の人物に関する情報として扱えば十分である。

(iii) 人的集合

 系図譜は、ある範囲内にある人々を記載したものであるため、人的集合という性質がある。

 逆に、人的集合という要素が欠ければ、人間以外の動物を対象とするものも含むデータとなるため、これも欠かすことはできないと思われる(「人的集合」ではなく「生物的集合」として、血統書付き動物の系図譜なども学問対象としてもいいかもしれないが、現段階ではとりあえず除外しておく)。

(iv) 選択的範囲

 系図譜に記載される範囲は、作成者・研究者が選択したものである。

 客観的な血縁関係は、生物学的関係であって、氏族・一族・家系といった人為的範囲を観念できないのに対し、系図譜の場合は、氏族等の範囲や、傍系や配偶者・姻族をするかしないかといった範囲に幅がある。すなわち氏族等の社会的に承認された区切りがある上、中には、歴代当主の兄弟姉妹の一部が省略されている系図譜や、逆に同一氏族ではないが近親である複数の家系を包含する系図譜もある。これは、作成者が、その意図・目的・認識に基づいて、記載する人の範囲を選択し限定したためと考えられる。

 そのような限定性のある人的範囲を作成者・研究者による選択性・主観性を以て「選択的」「主観的」と形容するか、それとも氏族等の区分の社会性を以て「社会的」と形容するかが問題となるが、「選択的」の語は「主観的」性質を含意するし、氏族の異なる複数家の系図を「親戚だから」という理由でまとめて作成する者も相当数存在することから「社会的」の語にはズレがあるため、「選択的」の語を採用するのが相当と解される。

 逆に、選択的範囲という要素が欠ければ、客観的・網羅的な過去から現在までのすべての人々のデータとなるため、これを欠かすことはできない。もちろん、そういった客観的な続柄的結合関係を網羅したデータベースは、系図系譜研究において極めて有用ではあるが、それは系図譜自体の要素・性質ではない。

 なお、主観的には判明すれば記載したかったが、資料収集を尽くしても根拠が見つからなかったために記載できなかったという、客観的な制約の側面もあることには留意しなければならない。

(v) データ性

 系図譜は、以下のような情報が記載されている記録であるから、データ性がある。

  • 当主位・祭祀の継承関係情報
  • 人的範囲情報(親族・家族など)
  • 続柄的情報(親子関係・婚姻関係・養子関係等)
    • 垂直的血縁関係(親子関係)
    • 水平的血縁関係(兄弟姉妹関係)
    • 姻戚関係(婚姻による結合)
    • 擬制的親族関係(養子関係等)
  • 属人的情報(個人の名前・生没年・官職等)

 データ性を欠かすことはできないことについては、説明を要しないほどに自明である。

 

(5)学問対象の内容的実質の要素・性質

ア 問題の所在

 (4)において、系図譜は、①作成者・研究者が選択した範囲に属する②続柄という関係性で結合していると認められる③人々の④時系列に基づく⑤データであると定義付けられることが明らかとなったが、これをそのまま学問対象の内容的実質としてよいかが問題となる。

 上記のように定義すると、系図系譜研究者が想起するものがすべて該当するのみならず、戸籍や宗門人別帳も該当する。戸籍は、全体を見れば確かに国が網羅的に編製させているため、網羅的と解する余地があり、①選択的範囲の該当性に疑問符が付くが、他面において、単体では、1家単位で編製するという方針を選択し、その方針の下で編製されているのであるから、①選択的範囲性が認められるからである。また、宗門人別帳も、戸籍と同様に、村落単位で編製されたものであるため、網羅的と解する余地があり、①選択的範囲の該当性に疑問符が付くが、他面において、1家単位で区切って記載するという方針を選択し、その方針の下で編製されているのであるから、系図系譜集と同様のものとして、①選択的範囲性が認められる。

 他方、系図系譜研究においては、複数の系図譜の間の関係を発見したり、いわゆる先祖調査に基づいて家系図を作成する研究、あるいは全人類の親族関係データベースを作成する研究も含まれるところ、研究前の時点では既存の系図譜が存在しないため、上記定義を学問対象の内容的実質と位置づけた場合、そのような研究が除外されかねない。そのため、系図譜の定義と学問対象の内容的実質とを分離し、後者を系図譜よりも拡張する必要がある。

イ 検討

 含まれるべき研究が除外されている原因は、系図譜の定義のうち、「①作成者・研究者が選択した範囲」すなわち選択的範囲性である。

 これを除外して、学問対象の内容的実質を「①作成者・研究者が選択した範囲に属する②続柄という関係性で結合していると認められる③人々の④時系列に基づく⑤データ」と定義すれば、客観的・網羅的な親族関係データベースも対象となり、そのようなデータベースの一種である宗門人別帳や戸籍、過去帳なども含まれるから、先祖調査に基づいて家系図を作成する研究、あるいは全人類の親族関係データベースを作成する研究も学問対象に含むことができる。

 逆に、選択性を除外しても、客観的・網羅的な親族関係データベースの類い以外には拡張されない。

ウ 小活

 よって、学問対象としての内容的実質の要素・性質は、①作成者・研究者が選択した範囲に属する②続柄という関係性で結合していると認められる③人々の④時系列に基づく⑤データであると解するのが相当である。

(6)学問対象の内容的実質を表現する概念語の確定

 以上の系図譜の5つの要素・性質(①時系列性、②人的集合、③続柄的結合関係、④選択的範囲、⑤データ性)を踏まえ、学問対象を表現するための端的な概念としての表現を選定することとする。そこで、以下の候補語を考案し、それぞれについて比較検討を行った。なお、人的集合と選択的範囲についてはともに範囲的性質を含むことと、5つの要素・性質全てを盛り込んだ概念語とすると冗長となりかねないため、3~4つの要素・性質を含めば足りることとした。

ア 候補語の比較検討

①「歴代家族構成」

 「歴代」概念により時系列性が適切に表現される。

 「構成」概念により、単なる個人の羅列ではなく続柄的結合関係が明示される。

 しかし、「家族」概念は、近世以降の「家」制度や現代的な核家族を想起させ、古代氏族や中世武家の一族を対象とする系図系譜研究には適用困難であるため、選択的人的範囲の包括性が低すぎる。

 また、「情報」を示す概念を欠くため、研究対象としてのデータ性が不明確となる。

 

性質 表現 要素該当性判定
時系列性 歴代 OK(時系列的展開を表現)
人的集合/選択的範囲 家族 狭すぎる
続柄的結合関係 構成 OK(単なる個人の羅列ではなく、続柄で表される結合体であることを表現)
データ性 欠缺

 

②「歴代家族関係」

 「歴代」及び「家族」概念は、上記①と同様である。

 「関係」概念についても、客観的な続柄的結合関係のみならず、感情的・社会的な人間関係を含めて理解されるリスクがある。系図系譜学が扱うのは、血縁・姻戚・養子関係という客観的な続柄であって、当事者間の親密度や対立関係ではない。この曖昧性は学術概念として不適切である。

 また、「情報」を示す概念を欠くため、研究対象としてのデータ性が不明確となる。

 

性質 表現 要素該当性判定
時系列性 歴代 OK(時系列的展開を表現)
人的集合/選択的範囲 家族 狭すぎる
続柄的結合関係 関係 感情的・社会的な人間関係を含めて理解されるリスクがある
データ性 欠缺

 

③「歴代親族関係」

 「歴代」概念は、上記①と同様である。

 「親族」概念は、系系譜の作成者の認識する家族ないし親族という選択的人的範囲の記録であることを示す。「親族」とすることで、(3)の多くの定義において不当に除外されていた、子のない配偶者やその姻族、養親子関係なども包含することができる。もっとも、ほとんどの系図譜の人的範囲は、民法725条の親族の範囲を大きく超えるため、両者の整合性が問題となるところ、「親族」に「歴代」の語が掛かっていることから、系図譜上の任意の世代において任意の基準者(これは当主に限らない)を設定し、その設定が世代間ないし続柄間を連続的に移動するものとして「歴代の基準者」を観念した上で、それぞれの基準者にとっての親族を包含するものと捉えれば、一応の整合性を保つことができると考える。例えば、第一世代Aを当初基準者とし、Aからその子である第二世代Bに基準を移動すれば、親族の範囲は1世代分広がるし、Bの弟Cを経由してCの子=Bの甥Dに基準を移動すれば、第三世代Dを基準とする親族の範囲までをも包含することができる。

 しかし、「関係」概念については、上記①の問題がある。

 また、「情報」概念を欠くため、研究対象としてのデータ性が不明確となる。

 

性質 表現 要素該当性判定
時系列性 歴代 OK(時系列的展開を表現)
人的集合/選択的範囲 親族 OK(氏族・一族・家族の全範囲を表現)
続柄的結合関係 関係 感情的・社会的な人間関係を含めて理解されるリスクがある
データ性 欠缺

 

④「歴代親族情報」

 「歴代」概念は上記①と同様で、「親族」概念は、上記②と同様である。

 「情報」概念により、データ性が確保される。

 しかし、「構成」概念を欠くことから、系図譜の本質的特徴である結合性が表現されない。

 「情報」概念は、人物プロファイル(出生・改名・職名等)や世帯編成をも含みうるし、情報科学的処理(データベース化・統計解析)との親和性が高い。

 

性質 表現 要素該当性判定
時系列性 歴代 OK(時系列的展開を表現)
人的集合/選択的範囲 親族 OK(氏族・一族・家族の全範囲を表現)
続柄的結合関係 欠缺
データ性 情報 OK(データとしての性格を表現)

 

⑤「歴代親族構成」

 「歴代」概念及び「構成」概念は上記①と同様で、「親族」概念は、上記②と同様である。

 しかし、「情報」概念を欠くため、研究対象としてのデータ性が不明確となる。

 

性質 表現 要素該当性判定
時系列性 歴代 OK(時系列的展開を表現)
人的集合/選択的範囲 親族 OK(氏族・一族・家族の全範囲を表現)
続柄的結合関係 構成 OK(単なる個人の羅列ではなく、続柄で表される結合体であることを表現)
データ性 欠缺

 

⑥「歴代続柄構成」

 「歴代」概念及び「構成」概念は上記①と同様である。

 しかし、「続柄」は重要な要素ではあるが、学問対象の内容的実質を端的に表現する語としては、「続柄」にフォーカスされすぎていて、直感的理解を妨げるし、範囲が無制限になっており、選択的範囲の要件を満たさない。

 

性質 表現 要素該当性判定
時系列性 歴代 OK(時系列的展開を表現)
人的集合/選択的範囲 続柄 続柄にフォーカスし過ぎているし、範囲が無制限になっている
続柄的結合関係 構成 OK(単なる個人の羅列ではなく、続柄で表される結合体であることを表現)
データ性 欠缺

 

⑦「歴代親族構成情報」

  「歴代」概念及び「構成」概念は上記①と同様で、「親族」概念は、上記②と同様で、「情報」概念により、データ性が確保される。

 

性質 表現 要素該当性判定
時系列性 歴代 OK(時系列的展開を表現)
人的集合/選択的範囲 親族 OK(氏族・一族・家族の全範囲を表現)
続柄的結合関係 構成 OK(単なる個人の羅列ではなく、続柄で表される結合体であることを表現)
データ性 情報 OK(データとしての性格を表現)

イ 「歴代親族構成情報」の採用

 以上のとおり、上記候補語⑦「歴代親族構成情報」は、系図譜の記載内容の4つの性質を表す概念を包含する。

 「歴代親族構成情報」であれば、次のような機能を有する。

 まず、前セクションに関連するが、「歴代親族構成情報」を内容とする記録類は、系図譜のみならず宗門人別帳や戸籍(ただし、単体や総体ではなく特定家系にフォーカスした連続する記録体として)、由緒書なども該当するため、ほとんど系図・系譜のみを対象としていた従来の史学的系譜学に比べて学問対象の範囲が明示的に広がる。

 また、「真の歴代親族構成情報」と「記録された歴代親族構成情報」とを概念上区別して分析することができるようになる。むしろ、そのような比較分析・検証や復元といった方法は、この概念分離なしには成立しえない。もちろん、これまでの各研究者は、系図の記載内容と真実とを念頭に置いて研究していたと思われるが、理論として明示されたことはなく、あくまで実務上そのようになされてきたものにすぎないのであって、これを理論上も明示することの意義は大きい。特に、「真の歴代親族構成情報を明らかにすること」を目的として位置づければ、戸籍・古文書から系図を作成する研究も対象となりうるし、複数の系図譜を比較検討した上で家祖等の出自を明らかにして複数の系図譜を接続する研究もこれに包含される。

 さらに、系図系譜研究の場合、3(3)イのような定義すなわち「系図譜の真偽」を明らかにする学問と主張する者もいるところ、そのような立場に立つと、系図譜に記載されている個々の人物情報や続柄などの内容的信憑性の問題なのか、それとも小道具的に作成された全く架空の氏族等の系図譜であるのかという外形的真正性の問題なのかが判然としない。これに対し、「歴代親族構成情報」の真偽とすれば、純粋に内容的信憑性に着目して情報の真偽を検討することができるようになり、外形的真正性と内容的信憑性を概念上分離することができる。

 以上のとおり、「歴代親族構成情報」が系図譜の内容的実質を表す概念語として最も適切に表現されており、十分に機能しうると考えられる。

 

「歴代親族構成情報」が実現する機能

学問対象の明示的拡張 系図譜のみならず宗門人別帳や戸籍など歴代親族構成情報を内容とする記録類が明示的に学問対象に含まれる
概念分離① 「真の歴代親族構成情報」と「記録された歴代親族構成情報」
概念分離② 外形的真正性と内容的信憑性

(7)結論

 よって、系図系譜学の学問対象の内容的実質である系図譜とは、①作成者・研究者が選択した範囲に属する②続柄という関係性で結合していると認められる③人々の④時系列に基づく⑤データであり、これを表す概念語として「歴代親族構成情報」を採用すべきである。

 

歴代親族構成情報 ①作成者・研究者が選択した範囲に属する

②続柄という関係性で結合していると認められる

③人々の

④時系列に基づく

⑤データ

 

5 目的論(2)学問目的の確定と階層

(1)先行研究における研究目的の再整理

 4で明らかになった系図系譜学の学問対象の内容的実質である「歴代親族構成情報」を軸に先行研究の研究目的を類型化すると、先行研究における研究目的は、次の4つであると仮定できる。すなわち、①個別の系統の真の歴代親族構成情報を明らかにすること、②系図譜にまつわる諸事象の類型、傾向及び変遷を明らかにすること、③系図系譜集及び事典類その他のデータベースを構築すること、④明らかになった真の歴代親族構成情報を歴史学、医学、遺伝学その他の研究において活用すること、である。

 では、この仮定は妥当か。

ア 学問目的①「真の歴代親族構成情報を明らかにすること」

 思うに、3(3)ウの出自解明・歴代解明派の実質は、「真の歴代親族構成情報を明らかにすること」と表現できる。

 まず、出自解明にせよ歴代解明にせよ、これらは結局、ある氏族・一族・家系の初代の人物がどの氏族・一族の人物の子であるか、すなわち、「A氏(家)のBは、C家の初代Dの親か」を立証することに帰着する。「系図関係を明らかにすること」という極めて漠然とした研究目的も、その趣旨ないし実質を突き詰めれば、こういった親子関係や配偶関係の確定を指すと解さざるを得ない。

 さらに、改姓改名や誤記、誤伝等による記述ブレのある人物・続柄や、諱不詳・実家不詳など不明瞭な記載のある人物など、系図譜上の人物の存否及び異同を確定し、系図譜に記載された事項の真実性を明らかにする研究もあるところ、これらは真のデータ(属人情報)を解明するものといえる。

 そして、系図系譜研究の中には、研究者自ら研究対象地域の系図譜を作成するものもあり、これは真の歴代親族構成情報を復元するものといえる。自家先祖研究書もそれと基本的に同じ作業をするものであり、著者自身やその配偶者の先祖ないし著者自身が親族と認識する範囲内の人物についての系図を作成し、先祖ないし親族の歴史・事績を記述したものである。

 これらを抽象化して端的に表現すれば、「真の歴代親族構成情報を明らかにすること」を目的とする研究に分類されるというべきである。

 そのように解すると、3(3)イ及びオも系図譜の真偽を明らかにすることを目的とするというのだから、上記の学問目的で説明できる。

 そして、このうち、「真の◯◯を明らかにする」という部分は、真実性を確認し、誤りを排除し、本来の情報を復元することを意味する。真実性については、100%の証明をすることは事実上は確かに困難であるし、時代を遡るほど困難になる。しかし、相当程度の蓋然性を以て立証することまでは必ずしもできないわけではないし、事実上困難だとしても、理論上も目指さなくてよいとするのは、学問目的論として妥当とはいえない。

 よって、系図譜記載の人物情報の真偽ないし存否及び系図譜未記載の人物情報を明らかにすることを包含した、「真の歴代親族構成情報を明らかにすること」を目的を表す文言として採用すべきである。

 そして、これ自体は、他のどの学問分野にも属するものではないから、系図系譜学の固有の目的であると解される。なお、これが伝統的系譜学の目的論として自覚的に挙げられることはなかったように思われる。

イ 学問目的②「系図譜にまつわる諸事象の類型、傾向及び変遷を明らかにすること」

 3(3)カの青山説は、系図譜の記載内容から、記載された人物間の続柄や系図譜作成者の意図、系図譜の作成目的等を読み取ることを史料学としての系図学の目的と主張する。

 さらに、義江明子は、古代の系図譜を地位継承次第・娶生系譜・父系出自系譜といった「類型」などを基準として系図譜の様式を分類するという方法を用いている(様式論の項を参照)。

 同様に、溝口睦子は、各氏族系譜の出自構造の中に擬制血縁の要素が含まれているかどうかを分析するという方法を用いている(様式論の項を参照)。

 これらは要するに、系図譜の作成目的、様式、機能などを類型化し、事例研究で確定した真の歴代親族構成情報と系図譜上のそれとを比較することにより系図譜作成者等の意図・認識や用いられた根拠資料についての傾向を分析し、またそれらの変遷など、系図譜にまつわる諸事象の類型、傾向及び変遷を明らかにする目的を有するものということができる。

 そのように解すると、3(3)エ、オ、ク及びケも系図譜自体の意義やあり方、系図譜作成者等の意識や伝来過程などを明らかにすることを目的とするというのだから、上記の学問目的で説明できるし、3(3)アの系図・系譜を究めるという目的も、上記学問目的の範囲内に属するといえる。

 ただし、青山らの研究は史料学的研究ではあるが、本書はそれをさらに発展・拡充させるため、他の多数の学問分野のアプローチを盛り込み、あるいはそれで代替した。そのため、この②の目的を史料学的分析とみなすのは失当であり、あくまで抽象的に文言を捉える必要がある。

ウ 学問目的③系図譜集及び事典類その他のデータベースを構築すること

 3(3)コの系図系譜集ないし事典類を編纂することも、『新撰姓氏録』、洞院公定の『尊卑分脈』、江戸幕府の『寛政重修諸家譜』及び『寛永諸家系図伝』、塙保己一の『群書系図部集』、太田亮の『姓氏家系大事典』を代表として、古来、行われてきた。

 系図系譜集又はそれに関する事典類の編纂は、単に収集した系図譜をそのまま収録するのではなく、系図譜相互の、あるいは証拠との間での整合性を確認するという研究過程を一応経て編纂されたと考えられ、系図系譜研究の一種ということができる。そのため、系図系譜集又はそれに関する事典類の編纂も系図系譜研究の目的の1つであると解される。

 また、こういった系図系譜集や丸山浩一『系図文献資料総覧 増補改訂版』緑蔭書房(1992年)を含む事典類、さらには解明された親子関係ないし婚姻関係の連鎖は、データベースの性質を有し、各歴代親族構成情報を解明する際の手がかりにもなり、閲覧者の調査研究活動を容易にし促進するものである。

 『譜牒学通論』は、中国における系譜学を歴史学の一領域として位置づけてはいるものの、中国の古代以来の系図系譜研究をも対象に学史を叙述しており、近現代のものに限定していない。

 そのため、個別の系図譜の範囲を超えて解明された人類全体の親子関係ないし婚姻関係を統合したデータベースや文献情報のデータベースを作成し、研究環境を構築することも系図系譜学の学問目的とするべきである。

エ 学問目的④「学問目的①~③の研究成果を歴史学、医学、遺伝学その他の学問分野において応用するための方法論その他の理論を確立すること」

(ア) 「研究の成果を歴史学、医学、遺伝学その他の学問分野の研究において活用すること」という目的

 3(3)キの宝賀寿男は、個別系図についての個別具体的な実証を積み重ねることによって歴史の全体像を修補・再構成するというボトムアップ型の研究方法が系図系譜研究の基礎である旨主張し、歴史研究に資することを系図系譜研究の目的としている。

 網野善彦及び青山幹哉は、史料学の一領域として系図学を位置づけていることから、史料学研究の対象というだけでなく、系図学を歴史研究の前処理すなわち歴史学研究に資するものと解していたともいえる。

 青山幹哉が「『尊卑分脈』採録に当たり、洞院家が各系図についてその真偽を調査したか否かは、はなはだ疑問である。収録系図の精粗を見ると、提供された系図を(一部に形式の統一はあったにせよ)そのまま採ったのではないだろうか。そうであれば、実力者による偽氏(出自詐称)も黙認されたと見るべきであり、あるいはここに中世社会の主意主義的な心性の存在を想定すべきかもしれない。」と述べているように、真の歴代親族構成情報を明らかにして、系図譜上の記載と比べることで「中世社会の主意主義的な心性」のようなテーマを解明することにつながる。

 そうすると、義江らの目的意識は、「真の歴代親族構成情報を明らかにすること」を前提とするものと位置づけることができるだけでなく、真の歴代親族構成情報と系図譜上のそれとを比較分析した後に「系図譜の記載内容から情報を得て歴史的事実などを解明すること」を目的とする研究、すなわち系図譜を活用した多様なアプローチに基づく研究を遂行することをも目的とする。

 さらに、3(3)カ・ケのように系図譜のあり方や伝世過程分析など系図譜にまつわる諸事象についての研究(上記イの学問目的②)もまた歴史学研究などに活用することが期待されている。

 他方で、医学や遺伝学など理系の研究において歴代親族構成情報が活用されることは、Lorenzや太田亮、宮地直一が指摘していたし、実際に活用されており、このような研究は当然ながら真の歴代親族構成情報を必要とする。これはつまり、系図系譜研究が専属的に歴史学に情報を提供する関係になく、医学など他の学問分野にも情報提供する関係にあるということである。3(3)シも、地域ないし日本全国の組織・文化研究に資することを目的としている。

 他方で、他の学問分野に系図系譜学の知見を利用されるとしても、歴史学に専属するわけではなく医学や遺伝学などの学問分野による利用も十分に想定されること、の5点から、少なくとも歴史学研究に資することを系譜学の目的とするのは、歴史学中心主義に基づく過度に恣意的な主張と言わざるを得ない。

 そのため、アで述べたとおり、系図系譜学は、「真の歴代家族関係を明らかにすること」という目的単体で成立しうるものであって、歴史学研究への活用は、密接不可分のものとはいえず、分離することが相当である。

 そうすると、「解明された真の歴代親族構成情報や系図譜にまつわる諸事象に関する研究の成果を歴史学、医学、遺伝学その他の学問分野において活用すること」を学問目的④とすることが考えられる。

(イ)効用と目的の混同

 しかし、この学問目的案には問題がある。

 まず、およそすべての学問分野は、「(対象)を明らかにすること」あるいは「(対象)を確立すること」というその学問分野自体が主体的に達成すべき事柄を目的としている。これに対し、「解明された真の歴代親族構成情報や系図譜にまつわる諸事象に関する研究の成果を歴史学、医学、遺伝学その他の研究において活用すること」は、他の学問分野が主体となって研究するというのであるから、およそ通常の学問目的とはいえない。すなわち、他の学問分野の研究に知見を事実上利用される学問分野は統計学や数学などいくつもあるが、「他の学問分野の研究に知見を利用されること」自体に目的意識を持つ学問分野はほとんど存在せず、他の学問分野ありきの学問目的を自覚的に位置づける学問分野などありえない(例えば、数学、物理学、化学などは地学研究にそれらの知見を大いに利用されるが、数学等の学問目的の中に「地学その他の学問分野に利用されること」など含まれていないと解される。)。

 さらに、本学問分野の研究成果を他の学問分野に利用されることは、実質的には事実上の効果ないし効用であって目的とはいえず、目的と効用を混同したものといわざるをえない。

 このような学問目的の主張は、系図系譜学を独立の学問分野として尊重しようとする者の発想ではなく、むしろこれを永久に妨害し、他の学問分野に従属させておこうとする意図が垣間見えなくはないのであって、採用することはできない。

 そのため、上記目的は到底採用することができない。

(ウ)学際的学問分野としての目的設定

 他方で、「解明された真の歴代親族構成情報や系図譜にまつわる諸事象に関する研究の成果を歴史学、医学、遺伝学その他の学問分野において活用すること」を他の複数の学問分野と意識的に共同して学際研究すべきという趣旨の学問目的と解することも一応できる。

 学際的学問分野としての存在意義を見い出すことにより、他分野からの参入を促進することが期待でき、学問分野全体の研究の質を向上させたり、学問分野の範囲を広げ、引いては系図系譜学の地位を向上させることに繋がりうる。学問目的①②の研究のみならず、学問目的③の系図譜集編纂やデータベース構築などについても学際的研究を期待できる。

 そうすると、学際的研究としての応用的な方法論その他の理論を開発し確立することも有用な学問目的となりうる。

 よって、そのような学問目的として、学問目的④「学問目的①~③の研究成果を歴史学、医学、遺伝学その他の学問分野において応用するための方法論その他の理論を確立すること」を採用すべきである。

オ 太田亮説との比較

 3(3)サで言及したとおり、太田は、他の著者と異なり、10つの学問目的ないし学問対象を挙げているため、それらとの対応関係を検討する(ただし、太田目的②・③は学問上の目的とはいえないため除外する)。

 まず、太田目的⑥「氏・苗字等の変遷を明らかにすること」は、学問目的①「歴代親族構成情報を明らかにする」ために必要な情報(Intelligence)であることから、系図系譜学においては方法論内に位置づけられる。太田目的①「史学上の必要からの必要で、歴史上有力な人物の系統を研究すること」、太田目的④「医学的・遺伝学的研究のため」、太田目的⑦「歴史学研究のために氏族系統を明らかにすること」(ただし、これは太田の自説ではない)、太田目的⑧「社会変遷の真相を明らかにすること」及び太田目的⑩「氏族・家系等の研究結果を元にした各時代の社会組織を明らかにすること」は、それぞれ歴史学研究・医学研究・社会学研究に資することを目的としているものといえるため、いずれも学問目的④に相当する。太田目的⑨「家々の系図を調査する」は、太田の自説ではないが、学問目的①に相当する。さらに、太田目的⑤「各人の系図研究の集大成としての真実の国史・国民史の形成のため」は、学問目的③及び④に相当する。

 そうすると、大田亮の各目的は、イ~エで明らかになった4つの学問目的で説明できるといえる。

カ 小括

 以上のとおり、先行研究における系図系譜研究の目的は、①「真の歴代親族構成情報を明らかにすること」、②「系図譜にまつわる諸事象の類型、傾向及び変遷を明らかにすること」、③「系図譜集及び事典類その他のデータベースを構築すること」、④「学問目的①~③の研究成果を歴史学、医学、遺伝学その他の学問分野において応用するための方法論その他の理論を確立すること」、の4つで説明することができ、学問分野の完全性の観点からも妥当といえる。

 よって、これら4つの目的を系図系譜学の学問目的として確定するのが相当である。

(2)目的の論理的依存関係分析と階層化

ア 問題の所在

 前セクションで確定された学問目的は4つあるところ、これらは対等な関係にあるのだろうか、それともいずれかが中核となるなどの論理的依存関係や階層関係はあるのかが問題となる。

イ 学問目的④と学問目的①~③の関係

 学問目的④と学問目的①~③との関係は、文理上、学問目的④が学問目的①~③を前提としていることは明らかである。

ウ 学問目的②と学問目的①の関係

 次に、学問目的②と学問目的①の関係を検討する。

 3(3)イで述べた3名の研究の目的は学問目的②に相当するところ、青山幹哉の研究は、真の歴代親族構成情報がどのようなものだったかを確定した上で、系図譜作成者が歴代親族構成情報を改ざんしたり、一部の人物を意図的に、あるいは無意識に記載しなかったりしたことと比較することが前提となる。 

 また、義江明子の研究のように、研究対象となる系図譜が地位継承次第すなわち非親族間の継承を含む政治的地位等の継承者を記録した系図譜なのか、血縁関係を記した系図譜(娶生系譜・父系出自系譜)なのかを判別するためには、「真の歴代親族構成情報を明らかにすること」が必要となる。

 さらに、溝口睦子の研究も同様に、対象となる系図が擬制血縁の要素を含む系図なのか、自然血族の系図(娶生系譜・父系出自系譜)なのかを確定するためには、「真の歴代親族構成情報を明らかにすること」が必要となる。

 もっとも、様式論など記載内容に中立的な研究の場合は、内容的信憑性の問題すなわち真の歴代親族構成情報の研究をする必要はないことから、必ずしも学問目的①を前提とするわけではないともいえるが、学問目的②の研究の正確性を期すためには、やはり学問目的①がその前提となるといえる。

 したがって、学問目的②は、それを目的とする研究のすべてが該当するわけではないが、基本的には学問目的①を前提とするというべきである。

エ 学問目的③と学問目的①の関係

 次に、学問目的③と学問目的①の関係を検討する。

 学問目的③の場合、学問目的①に基づく研究によって真の歴代親族構成情報を明らかになった成果を反映した系図譜集及び事典類その他のデータベースを構築することが期待されるため、学問目的①が学問目的③の前提となるといえる。

 他方、先行研究を検証する場合には系図譜集やデータベース等ですぐに元データを参照できると便利であるし、未着手の系図譜について学問目的①を研究目的とする際の系図譜の収集活動を行う際にも有用である。

 したがって、学問目的③は、必ずしも一方的な関係にはないが、基本的には学問目的①を前提とするというべきである。

オ 学問目的②と学問目的③の関係

 次に、学問目的②と学問目的③の関係を検討する。

 学問目的②を目的とする研究では、系図譜集やデータベースなどを用いて研究対象の調査を行うことが期待されるが、それらに登載されていない系図譜を収集して研究を行ったり、データベース等への登載を促したり提供することも期待されるから、必ずしも一方が他方の前提となる関係にはない。

カ 小括

 そうすると、各学問目的間にはそれなりに双方向性がみられるものの、基本的には学問目的①が他の3つの学問目的に共通した前提となっているといえる。反対に、学問目的④は、基本的には他の3つの学問目的の成果を前提とする関係にある。

 したがって、系図系譜学の中核的目的は、学問目的①「真の歴代親族構成情報を明らかにすること」にあり、学問目的②「系図譜にまつわる諸事象の類型、傾向及び変遷を明らかにすること」、学問目的③「系図譜集及び事典類その他のデータベースを構築すること」、及び学問目的④「学問目的①~③の研究成果を歴史学、医学、遺伝学その他の学問分野において応用するための方法論その他の理論を確立すること」の3つが副次的目的となると解するのが相当である。

(3)系図系譜学の目的の確定

 よって、系図系譜学においては、下記の4つを学問目的とし、学問目的①を中核的目的とする。

表 系図系譜学の4つの学問目的

①真の歴代親族構成情報を明らかにすること
②系図譜にまつわる諸事象の類型、傾向及び変遷を明らかにすること
③系図譜集及び事典類その他のデータベースを構築すること
④学問目的①~③の研究成果を歴史学、医学、遺伝学その他の学問分野において応用するための方法論その他の理論を確立すること

 

6 対象論(2)学問対象の範囲

(1)問題の所在

 4(4)で系図譜の内容的実質を<歴代親族構成情報>とした上で、5(4)で系図系譜学の学問目的を確定したところ、系図系譜学の学問対象の範囲が問題となる。ここでは、複数の側面から検討する。

(2)先行研究

 先行研究において学問対象の範囲に関する主張には、次の3説がある。

 亀長洋子は、「家系に関わる情報に言及がみられるさまざまな史資料の総称で、樹形図、家譜、族譜、教会登録記録、遺言、日記、殺人帳、課税記録なども含む」とした。

 鈴木正信は、「系譜とは、政治的地位や血縁など、何らかの継承関係を伝える資史料の総称」とした。

 太田亮は、系図譜の範囲を「系図、本系帳、氏文、姓氏録の記事より、書上げ等、氏、家の出自、由緒、来歴等を記載したもの一切」とした。また、太田は、「学問対象について、太古の氏族制度、上古の氏制度、カバネ制度、品部、部曲等の諸制度、中古の氏制度、苗字、稱號、屋號等の發達變遷、及び人名の變遷、通稱の發達、通字の調査、紋章、家格、氏信仰、氏神氏寺、氏傳說、墓墳等」を挙げている

 以上のとおり、3説とも、内容的実質ないし分類名で範囲を画定したものであり、個々の対象物の名称や形態・形状で対象となるか否かを判別するものではない。

(3)基本的範囲

ア 問題の所在と範囲確定方法

 (2)の3説は、内容的実質で学問対象の範囲を画定しようとするものである点で妥当であるが、十分とはいえない。学問対象は、学問の条理上、将来的拡張可能性を確保しつつも、学問目的に対応する適切なものでなければならないところ、(2)の3説は、タイトルや外観が「系図」や「系譜」であるのものに限らず、内容的実質を含むものすべてを対象する点では一致するものの、(2)の3説間ですら一致していないし、3者が確定した学問目的との対応関係もそれぞれ上手く対応しているようには思われないからである。

 そこで、学問対象の範囲をどのように画定するかが問題となるところ、対象は目的に基づいて設定されるべきであるから、5で確定した学問目的に基づき、学問対象の基本的な範囲を演繹的に導出して確定することとする。その際、学問的完全性と将来的拡張可能性の確保の要請に応えられるよう留意する必要がある。

イ 学問目的①関係

 学問目的①「真の歴代親族構成情報を明らかにすること」が<歴代親族構成情報>を対象としていることが明らかであり、それが記録された書面ないし電磁的記録としての系図譜が対象となることもまた明らかである。

 それらのみならず、系図譜とは、歴代親族構成情報を内容とする記録(4(4)参照)であるから、系図及び系譜のみならず戸籍、宗門人別帳、過去帳、墓誌、碑文ないし断片的な親族関連情報を記述した日記やメモ類(電磁的記録を含む)など歴代親族構成情報を記録した書面等全般が対象となると解するべきである。

ウ 学問目的②関係

 学問目的②「系図譜にまつわる諸事象の類型、傾向及び変遷を明らかにすること」を満たす必要があるところ、<系図譜にまつわる諸事象>としては、系図譜の形態の分類や変化、社会的機能、編纂過程の特徴などを対象とすることになる。

エ 学問目的③関係

 学問目的③「系図系譜集及び事典類その他のデータベースを構築すること」を達成するためには、明らかにされた歴代親族構成情報に加えて、そのようなデータベースを構築するためのプログラミング技術の類いも対象となることは明らかである。

オ 学問目的④関係

 学問目的④「学問目的①~③の研究成果を歴史学、医学、遺伝学その他の学問分野において応用するための方法論その他の理論を確立すること」については、「学問目的①~③の研究成果を歴史学、医学、遺伝学その他の学問分野において応用するための方法論その他の理論」が研究対象となることは明らかであるが、個別の研究においては、多様な研究目的と、それに応じた研究対象が設定されるため、学問目的④からは、「学問目的①~方法論その他の理論」という以上の基本的対象範囲を確定することはできない。

カ 副次的対象:系図譜に類似する外観を有するが歴代親族構成情報を軸としない記録類

 系図譜に類似する外観を有するものとして、学派の分岐図や地位継承記録などといった歴代親族構成情報を軸としない記録類も存在し、4(2)で明らかになったようにそれらも学問対象と考える者もいるところ、系図系譜学においては、学問対象の内容的実質が<歴代親族構成情報>であることから、そのような記録類は学問対象には含まれない。しかし、地位継承記録等には系図譜様の外見を有することが少なくないため、歴代親族構成情報の記録に当たるか否かは一見して判別できるとは限らないことから、その判別をする実務上の必要も認められる。

 そのため、歴代親族構成情報でない記録類は、副次的対象として位置づけるべきである。

 

表 学問対象の基本的範囲に含まれるもの(例示列挙)

ア 第一次対象:歴代親族構成情報を含む記録類(学問目的①に対応)

(ア)歴代親族構成情報を含む記録類

– 系図譜

– 戸籍・宗門人別帳等の公的記録

– 過去帳・位牌・墓誌・信徒名簿等の宗教的記録

(イ)日記・書簡・古文書等において散在する親族関係に関する記述

イ 第二次対象:系図譜の形態・機能・社会的背景等(学問目的②に対応)

(ア)系図譜の様式・作成目的・機能

(イ)系図譜の編纂・伝来過程

(ウ)系図作成者の意識・家系範囲の認識

ウ 第三次対象(学問目的③に対応)

(ア)事例研究で明らかになった歴代親族構成情報

(イ)データベース等を作成するためのプログラミング技術

エ 第四次対象(学問目的④に対応)

他の学問分野において応用するための方法論その他の理論

オ 判別のための副次的対象:系図譜に類似する外観を有するが歴代親族構成情報の記録でないもの

(ア)地位継承次第・法脈(宗教的・政治的・社会的地位など)

(イ)学派・技芸(師弟関係などの)

 

(4)時期的範囲

ア 問題の所在

 太田亮、溝口睦子、義江明子、宝賀寿男、鈴木正信など従来の系図系譜研究者は、系図譜に古代とか中世とかの時代区分を冠して時代的範囲を細分化した研究を発表してきた。これは、彼らが事実上ないし自己認識上は系譜学者というより日本史学者であるがために、日本史学ないし歴史学的な時代区分論をそのまま採用した結果だと思われるところ、系図系譜学においてそのような時代区分論を採用することが妥当か、系図系譜学の時期的範囲をどう設定するかが問題となる。

イ 系図譜の特性と時代区分論の不適合性

 系図譜は、古代・中世・近世・近現代という時代区分ごとに分けることの相当性はあまり高くないと思われる。

 そもそも系図譜は、戸籍類や宗門人別帳といった時期的範囲が単位期間であるものを除いて、作成時点から数世代ないし数十世代遡及する歴代親族構成情報を記録するものであり、複数の時代区分に跨がる内容を持つという特性がある。例えば、現代の自家先祖調査では1800年代すなわち江戸時代の祖先までは最低限判明するため、家系図の時代的範囲は少なくとも江戸時代~現代の範囲となるし、江戸時代に作成された武家系図の場合は、大抵の場合は、平安時代や鎌倉時代の祖先に遡及して記載する。

 794年から2025年までの歴代親族構成情報を載せた系図があった場合、彼らは一体どの時代の系図譜として認識するのだろうか?自分の関心のある時代部分のみ切り出すのか、作成年代を元に現代系図として扱うのか、そういった基準を明示している研究者はいないように思われる。

 仮に時代区分ごとに「日本古代系図系譜研究」「日本中世系図系譜研究」などと分割した場合、次の問題が生じる。

 第一に、同一系図譜が複数の時代区分に跨がるため、いずれの時代区分に属するかの判定基準が恣意的とならざるを得ない。作成時期で区分するか、記載内容の中心時代で区分するかによって、分類が異なってしまう。作成時期基準を採用するとしても、時折書き継がれてきた系図譜の場合、作成時期が分散している。

 第二に、古代研究者と中世研究者が異なる定義・用語・方法論を用いれば、時代ごとの研究蓄積に齟齬が生じ、理論・方法論の統一性が失われ、研究成果の相互参照や比較検討が困難になる。

 第三に、系図譜の通時的な特性や内容を捉えることが困難である。系図譜は複数世代にわたる歴代親族構成情報を記録したものであるから、戸籍や宗門人別帳の類いを除き、特定時代のスナップショットではない。

ウ 系図譜の特性に基づく系図系譜学の独自性

 歴史学においては、古代・中世・近世・近現代という時代区分が政治史的観点から設定されており、それぞれの時代の政治体制や社会構造の特質に基づく専門分化が進んでいる。しかし、系図系譜学は歴史学とは独立した学問分野であり、歴史学の時代区分論に拘束される理由はない。むしろ、系図譜の特性である複数時代跨越性を考慮すれば、歴史学的時代区分から意図的に脱却することが、系図系譜学の学問的独自性を確保する上で不可欠である。

 確かに作成時期や内容情報の同時代的比較をする価値はあるものの、それらに限らず、またそういった研究目的があることを明示せずに、さも時代別に研究することを当然視して、恣意的に、又は無自覚に個別の系図譜を古代・中世・近世・近現代という時代区分のいずれかに分類することは、歴史学という別の学問分野の視座を合理的理由もなく採用し、系図譜の内容を分断することに他ならない。

 彼らは無意識に歴史学の時代区分論に影響されてしまうのかもしれないが、そのような系図譜の特性を考慮すれば、研究者各自の興味関心の中軸が特定の時代にあるとしても、理論構築をするにあたっては全時代を通して一貫的に整理しなければ、時代間の齟齬が大きくなってしまうから、全ての時期に通用する一貫した理論が必要である。ただし、学問目的②の系図譜にまつわる諸事象の類型、傾向及び変遷を目的とする研究(固有理論に属する。固有理論については独立のセクションで詳述する。)の進展により、系図系譜学固有の時代区分をすることが有効又は必要であると認められる場合は、そのような固有の時代区分を設けるべきである。

エ 小括

 以上のように考えると、従来の系図系譜研究における時代区分論は、系図系譜研究が本来的には歴史学とは別の学問であるにもかかわらず、研究者自身の自己認識が歴史学者であるか、歴史学の影響を強く受けてきた結果として無自覚・無批判に持ち込まれてきたものであり、恣意的な運用がなされ、それによって弊害が生じうることが明らかとなった。

 よって、系図系譜学においては、古代から現代に至るまでの全時代を包含するものとして学問対象の時期的範囲を設定しつつ、その理論は、原則として時代区分論を採用しないものとする。そして、個々の研究者が全時代を均等に研究すべきという意味ではなく、方法論策定・用語定義などの理論体系の構築においては、全時代に通用する一貫した体系を構築する。

 事例研究や固有理論研究(これらの定義は分野体系論において詳述する)においては、研究者各自の興味関心に応じて特定時代を中心に据えることは許容されるが、なぜそのような時期的範囲をどのような基準で設定したのかを明示し、また、全時代統合的な理論・方法論の枠組みの中でそのような研究を位置づける必要がある。

(5)社会階層的範囲

ア 問題の所在

 系図系譜研究の研究対象の社会階層的範囲はどうあるべきかが問題となる。

イ 従来研究の偏重

 従来の日本の系図系譜研究の対象は、自家先祖研究書と歴史人口学研究を除き、基本的には武家や公家などの上流階級に偏重している。これは、従来の日本の系図系譜研究が歴史好きないし歴史学系の研究者によってなされ、従来の歴史学研究の潮流が政治史などの上流階級の人々を対象とするものであったことと、庶民に関する古代・中世の古文書等があまり残っていないことに起因すると思われる。

 しかし、このような階層的偏重は、系図系譜学の学問的完全性を損なうものである。系図系譜学の学問対象である歴代親族構成情報は、特定の社会階層に固有のものではなく、親族関係の記録という人類普遍的な現象である。特定階層に学問対象を限定する合理的根拠は存在しない。

ウ 全階層を対象とする必要性と意義

 そのため、系図系譜学は、その4つの学問目的を達成するため、庶民の歴代親族構成情報をも学問対象とする必要がある。

 第一に、庶民家系を対象とした事例研究が蓄積されれば、固有理論や方法論を精緻化させることができる。上流階級の系図譜のみを対象とした理論は、その特殊な社会的条件(記録の充実、作成動機の政治性等)に依存した偏った理論となる危険性がある。全階層を視野に入れることで、より普遍的な理論構築が可能となる。

 第二に、学問目的④「明らかになった真の歴代親族構成情報を歴史学、医学、遺伝学その他の研究において活用する」ことができる。庶民の歴代親族構成情報は、上流階級とは異なる視点からの社会史ないしミクロヒストリーための歴史理解や、より広範な人口を対象とした遺伝子疾患の研究など医学・遺伝学研究に貢献しうる。

 第三に、そもそも、これまでは伝統的系譜学や氏族史・一族史・家系史の従来型研究が有名・主要氏族等に集中し、庶民の系図系譜研究自体が自家先祖調査以外では手つかずの状態にあったのであり、今後の発見の可能性はゼロではないのだから、現在の認識上ないし経験則上は庶民の系図譜はあまり残されていないように思われるとしても、理論上それを対象外とすることは妥当ではない。

エ 小括

 よって、系図系譜学においては、対象を上流階級に限るべきではなく、庶民も対象とするべきである。

(6)地理的範囲

ア 問題の所在

 学問対象の地理的範囲はどうあるべきかが問題となる。

イ 従来研究の偏重

 現状、日本における系図系譜研究は、国内の系図系譜研究に目を向けると中央・地方に特に偏りはないように思われるが、国別に見ると、ほぼ日本の系図系譜研究に限られ、海外系図系譜研究は非常に少ない。

 しかし、系図系譜学では、学問目的②「系図譜にまつわる諸事象の類型、傾向及び変遷を明らかにする」ためには、異なる文化圏における系図譜の様式・機能・社会的位置づけなどを比較することにより、系図譜にまつわる諸現象の普遍的特性と文化的特殊性を明らかにする必要があることから、国際比較を行う必要がある。逆に、特定地域に限定する合理的理由は存在しない。

ウ 小括

 そこで、系図系譜学の学問対象は、特定の国家・地域に限定されないものとする。そのため、国内外を問わず、海外系図系譜研究についても対象とするべきであるから、本書は、日本固有の特殊事情に依存しない普遍的な概念・方法論を志向し、中国系図系譜学、欧州系図系譜学等の地域別サブジャンルにも適用可能な普遍的な理論として構築する必要がある。

 ただし、実践上は、言語的・文化的・資料的制約から、研究者は特定地域を中心とした研究を行う。これにより、日本系図系譜学、中国系図系譜学、欧州系図系譜学等の地域別サブジャンルが形成されうる。

 なお、本稿では、時間と資料アクセスの制約から、当面は、日本における研究を念頭に置いた理論体系の構築を行うこととし、海外の研究についてはほぼ考慮外としたが、一応の理論体系ができあがった後、海外の研究を反映することを予定している。

(7)学理的範囲

ア 問題の所在

 系図系譜学は、これまでの伝統的系譜学とは異なり、理論面も重視しているため、学問対象の学理的範囲はどうあるべきかが問題となる。

イ 下位分野の構成と各分野における目的・方法の研究の必要性

 学問目的を実現するためには、5(3)の4つの学問目的の文言に直接的に該当する研究だけをしていればよいというわけではない。学問目的を実現するためには、理論体系を発展・向上させる研究も当然に極めて重要かつ必要である。すなわち、学問対象の内容的実質を超えた学理的範囲における議論も学問上当然に学問対象となる。これは、全ての学問分野に共通する。

 そのため、系図系譜学の下位分野をどう構成するべきかという議論から始まり、各下位分野がどのような目的や方法を有するかを明らかにすること自体も学問対象となる。

 下位分野について詳しくは分野体系論で概要を論じた後に、各下位分野の章においてそれぞれ具体的に詳論するが、下位分野には、目的論、対象論、用語論、分野体系論、意義・効用論、方法論、固有理論、学史、研究環境構築などがある。

ウ 小括

 よって、各下位分野における研究対象のみならず目的、方法も系図系譜学の学問対象となる。

 なお、学史について触れておくと、鈴木正信が日本の古代氏族系譜関係の研究史を整理しているが、中世・近世・近現代の系図譜の研究理論等についての研究史は未だ整理されていないように思われる。また、史料学としての系図系譜研究についても、日本の古代は鈴木正信などが、日本の中世は青山幹哉が概論をまとめているが、近世・近現代は未だまとめた者はいないと思われる。

 

表 学問対象の各種範囲

時期的範囲 過去から現在まですべて
社会階層的範囲 王侯貴族・庶民問わずすべて
地理的範囲 国内外問わずすべて
学理的範囲 系図系譜学の各下位分野における研究対象すべて